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「レコード屋の日常」は、毎日がちょっとしたドラマです。

「今日は何か良さげなレコードありますか?」って店頭に立っていると、お客さんから時々訊かれるコトバです。

確かにレコード店経営というシゴトは、毎日いろいろなレコードと出会います。

開店すると、常連さんがふらっと立ち寄ってくれたり、地方から旅行ついでに寄ってくださるお客さんがいたり、海外から日本のレコードを探しに来る方がいたり…。

そして時々、販売だけでなく「買い取り査定をお願いします。」ってレコードを持って来られるお客さんもいらっしゃいます。

レコードの査定というと、「値段を付けるだけ。」と思われるかもしれません。

でも実際は全然違っていて査定依頼をうけたレコードには、そのお客さんの人生がヒシヒシと伝わってきます。

そういう側面もあるのでレコードの査定は、単に「レコードを見るシゴト」というより、「その人の思い垣間見せてもらえるシゴト」でもあるかもってオイラは思っています。

コレまでに数多くのレコードの買い取り査定をさせていただきましたが、ホントにレコードって音楽が記録されているだけでなくその所有者の想いまで記録されているなぁ〜って思うことが多くありました。

だけど、ほのぼのとした思い出だけでなく、時にはその反対の、お客さんにとってメチャ残酷な現実をお伝えしなければならない場面もあります。

今回おハナシしするのは、まさにそんな出来事です。

この記事は誰かを批判したいワケでも、フリマサイトやオークションを否定したいワケでもありません。実際、そうしたサービスには正規のレコードも数多く出品されており、上手に利用すれば素晴らしいレコードとの出会いもあります。

それでも、コレクタブルなレコードの世界には「知っておいたほうがいい現実」があります。

オイラは、その現実を1人でも多くのレコードファンに知っていただきたいと思い、この出来事を書くことにしました。


レーベルがチラッと見えた、その瞬間でした。

ある日、40代くらいの男性のお客さんがご来店されました。

「1枚だけなんですが、査定をお願いできますか?」

もちろんですっ!オイラはニコニコ顔でレコードを受け取ろうとしました。

その時、お客さんがバッグからレコードを取り出した瞬間、レーベル部分がほんの少しだけチラっと見えたんです。

その瞬間、オイラの心の中では思わず、

「ウワっ!ものスゴいレア盤が出てきたな!」って思わずココロの中で声が出ました。

手にとってレーベルのタイトルを見た瞬間、オイラのアタマの中では査定金額よりも先に「コレ、久しぶりに見るなぁ。」という感情が湧き上がりました。

仮にココではそのレコードを「A」としておきますが、そのタイトルは、知る人ぞ知るレアな12インチシングルです。

当店でも数年に1枚入荷するかどうかというメチャ、レアなタイトルでココ3年程は、一度も入荷していません…。

正直、「コレは気合を入れて査定をしないとっ!」と思いました。

モチロン査定額もそうですが、こういうレコードを持って来られるお客さんは、他にも素晴らしいコレクションをお持ちのことが少なくありません。

「このご縁を大切にしたい。」そんなコトまで、一瞬で頭をよぎりました。

レコード店を営んでいると、1枚の査定がその後の長いお付き合いにつながることも少なくありませんからね。

そんな期待を胸に、そのレコードを受け取りました。

手に取った瞬間の違和感

トコロが、その期待は数秒後に違和感へと変わります。

「アレ…?」

オイラは長年、オリジナル盤ばかりを見てきました、だからなのかもしれませんがレコードを手に取った瞬間に時々説明できないような違和感を覚えるコトがあります。

オイラは冗談半分でこの違和感を「ブートレッグ盤センサー」と呼んでいます(笑)。

今回も、まさにそのセンサーがビビビッ!と反応しました。

ジャケットは古びたジェネリックスリーブ(無地の穴あきジャケット)。

中には経年によって薄茶に変色した紙製インナースリーブ。

どちらも数十年という年月を感じさせる自然な風合いです。

しかし、レコード本体のレーベル面はジャケットとは違い妙にキレイでした。

確実にジャケットと中身のレコード盤の時間経過がリンクしていないコトがそこからわかるくらいです。

だけどレコードのレーベル面を見た目だけでは、ほとんどオリジナル盤と見分けがつきません。

トコロが、センターホールの周囲にある円周状の段差を見た瞬間、

「コレは、おかしいな。」って思いました。

その「A」というタイトルのオリジナル盤は1970年代のUS盤プロモなのです。

本来、その時期のオリジナル盤USプレスで現れるハズのない特徴が「A」にはありました。

逆に、その段差はUK盤で見かけることが多いスタイルです。

モチロン、それだけで断定はできませんがオイラの長年の経験が、「ナニかがおかしい…。」と教えてくれていました。


Discogsで確信したこと

オイラはお客さんに事情を説明しながら、お店のパソコンでDiscogsを開いて一緒にリリース情報を確認しました。

すると、そこには査定依頼のこの「A」というレコードは2010年にUKでプレスされたUnofficial Releaseの情報が掲載されていました。

その瞬間、「ああ、やっぱり…。」という気持ちになりました。

実はオイラ自身、このタイトルにブートレッグ盤が存在するコトを知りませんでした。

それでも最初に違和感を覚えたのですから、自分でも少し驚きました。

ちなみにDiscogsでは、現在このようなUnofficial Releaseはマーケットプレイスで販売できない仕様になっています。

以前は、Discogsのマーケットプレイスでは、こういったUnofficial Releaseのレコードもバンバン普通に販売出来ていましたが時代とともにコンプライアンスへの意識も変わってきたんでしょうね、結構な割合でUnofficial Releaseなレコードの販売が出来なくなっています。


一番つらかったのは、お客さんの表情でした

オイラは意を決してお客さんへ伝えました。

「すいません…これはオリジナル盤ではないので、当店ではお買い取りできません。」

その瞬間、お客さんの表情が変わりました。

それまで落ち着いていた様子が一変し、緊張した面持ちになり、額には汗がにじんでいました。

このレコードを手に入れた経緯を伺うと、1年前にフリマサイトで約2万円ホドで購入されたそうです。

そのお客さんは、このレコードがレア盤であることをご存じでした。

だからこそ2万円という金額を出して購入したのです。

もし本物のオリジナル盤であれば、決して高い買い物ではありません。

むしろフリマサイトで相場より安く手に入れられたと思ったことでしょう。

オイラもその時に出品されていた商品ページを見せていただきました。

そこには「オリジナル盤」とも書かれていません…だけど「ブートレッグ盤」とも書かれていません。

価格だけを見ると、オリジナル盤より少し安い設定。

この情報だけでは、多くの人が「オリジナル盤なのかな」と受け取ってしまう可能性があります。

なお、出品者が故意にブートレッグ盤をオリジナル盤だと偽って出品したのか、それとも出品者本人もオリジナル盤だと思い込んでいたのかは分かりません。そこは事実だけでは判断できません。

だからこそ、この出来事はとても考えさせられました。


オリジナル盤にこだわる理由

オイラはオリジナル盤12インチシングル専門店を営んでいます。

「ナンでそこまでオリジナル盤にコダワルのですか?」と訊かれるコトがあります。

オイラにとって、オリジナル盤とは単に古いレコードではありません。

その時代に、その国で、その工場で、その音楽が世の中へ送り出された証そのものだと思っています。

モチロン正規の再発盤にも価値があります。

音楽を楽しむという意味では、多くの人にとって素晴らしい存在です。

しかし、それとブートレッグ盤はまったく別のモノです。

正規の再発盤は権利者の許諾のもとで作られた製品ですが、ブートレッグ盤はそうではありません。

中古のレコード市場には両者が混在して販売されているため、初心者ほど混乱しやすいのが現実です。

人気が高まり、需要が生まれても、採算の問題から正規再発されないタイトルは少なくありません。

その隙間を埋めるようにブートレッグ盤が作られてきたという歴史があります。

しかし、それがオリジナル盤と見分けがつきにくい形で流通し、結果としてレコードを愛する人やコレクターが誤認してしまうのであれば、とても悲しいコトだと思うんです。


フリマサイトやオークションは悪なのか?

ココで誤解していただきたくないコトがあります。

オイラは、フリマサイトやオークションを否定しているワケではないんですよ。

実際に正規品を誠実に出品されているセラーもたくさんいますし、便利なサービスであることも間違いありません。

ただ、個人売買では運営会社が1枚1枚の真贋を保証してくれるワケではありません。

最終的には売り手と買い手の間で判断する場面が多くなります。

だからこそ、レア盤を買うときホド慎重になってほしいのです。

「ヤバいっ!掘り出し物を見つけた!」

そう思う瞬間ホド、人は冷静さを失いがちです。

「今買わないと他の人に取られてしまう。」

そんな気持ちもよく分かります。

でも、そんな時こそ一呼吸置いてください。

商品説明をよく読む。

相場を調べる。

不明点は出品者へ確認する。

「これはオリジナル盤ですか?」ってその一言を質問するだけでも、判断材料は増えます。

もちろん画像だけでは判断できないケースもあります。

それでも、確認するという行動は決してムダにはなりません。


レコードを愛する人へ伝えたいコト

オイラは個人がブートレッグ盤と理解したうえで楽しむことまで否定するつもりはありません、音楽の楽しみ方は千差万別で人それぞれですからね。

ただ、「オリジナル盤だと思って購入したら、実は違った。」っていうのはこれは別のハナシです。

今回のお客さんは、本当にショックだったと思います。

オイラもその表情を見て、とても胸が痛みました。

査定できなかったコトではありません。

「大切なコレクションだと思っていた1枚」が、その日を境にまったく違う意味を持ってしまったコトがやはり悲しかったんですよね…。

もし購入前に相談していただけたら、何かアドバイスができたかもしれません。

もちろん100%見抜けたとは言い切れませんがそれでも、一緒に考えることはできたんじゃないかなって思うのです。
でも、ソコの至るにはオイラとお客さんの関係性も関わってきますケドね。


FRANCOIS K. / FK-EP
FRANCOIS K. / FK-EP の試聴
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今回の件で伝えたいコト

レコードには音楽だけではなく、時代や文化、人の想いが刻まれていると個人的には思っています。

だからこそ、本当に気に入った1枚は、納得して手に入れてほしいって思うのです。

中古レコードの世界は、とても奥が深く、だからこそ面白い世界でもあります。

でも、その一方で、今回のような出来事が起こることも事実としてあります。

この記事を読んでくれた皆さんには、ぜひ「ブートレッグ盤という存在がある」という事実だけでも知っていただけたら嬉しいです。

そして、レア盤を購入するときは、価格だけで判断せず、分からないコトがあればレコードに詳しい友人や信頼できるお店や経験豊富なセラーに相談してください。

せっかく大切なお金で手に入れるお気に入りになる1枚です。

オイラは、皆さんにココロから納得できる1枚と出会ってほしいなぁ〜って思っています。

もしこの記事が、同じような思いをする人を1人でも減らすキッカケになれば、レコード店を営む者としてこれほど嬉しいコトはありません。



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