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「DJをやってみたい」と話していた若いお客さん

先日、お店で若いお客さんとハナシをしていたときのコトです。

その彼は、いわゆる「レコード世代」ではありません。

それでも何かのキッカケでレコードに興味を持つようになり、少しずつ買って聴くようになったそうです。

オイラは渋谷で中古レコード店をやっているので、こういう若い人がお店に来てレコードを見てくれるのは、やっぱり嬉しいものがあります。

別に「若者にもアナログの良さを分かってもらわなければっ!」ナンて大げさなコトを考えているワケではありません。

単純に、自分たちとは違う時代に音楽を聴いて育った人が、今になってレコードという古いメディアを面白がっている…それだけでも興味深いんですよね。

その彼の場合、レコードを聴き始めたコトがキッカケになって、学生時代の友人とまた交流するようになったそうです。

その友人もレコードが好きで、自宅でDJを楽しんでいたとのコト。

彼は友人のDJを聴くうちに、

「自分でもDJをやってみたい」と思うようになったそうです。

それまでレコードは、1枚ずつ取り出して盤面に針を落として「聴くもの」だった。

トコロがDJなら、ある曲から別の曲へつなぐコトができる。

2つのターンテーブルを使って曲と曲をミックスすれば、単体で聴いていた時とは違う流れやグルーヴが生まれる。

「レコードって、こういう楽しみ方もできるんだ」っていうコトを知ったワケです。

トコロが、そんな彼がある日、お店でこんなコトを言いました。

「DJをやってみたいと思ってたんですけど、ちょっと怖くなっちゃって…」

何があったのか事情を訊いてみると、その友人が実際に人前でDJをする機会があったそうです。

ミックスは上手い。

レコードもたくさん持っている。

90年代のアンダーグラウンドHipHopが好きで、自分なりの音楽の好みもシッカリ持っている。

トコロが、その友人がDJを始めると、それまで50人くらいいたフロアから、だんだん人がいなくなってしまったというんです。

彼はそれを見ながら、

「自分がDJをやって、あんな風になったらどうしよう…」

と思ったらしい。

あぁ、それは怖いよなぁ…ってそう思いました。

ナゼならオイラにも、似たような経験があるからです。

しかも客として見ていた側ではありません。

誰もいなくなったフロアを、DJブースの中から見ていた側です。

もう30年以上前のハナシです。

30年以上前、オイラも人前でDJを始めた

20代の頃、オイラがよく飲みに行っていたバーがありました。

とてもカジュアルなお店で、キャッシュオンデリバリーのラフなスタイルのバーです。

日本人のお客さんもいれば、日本で働いている外国人のお客さんもいて、いろいろな人が自然に混ざってお酒を飲んでいる。

オイラはその雰囲気が好きで、友人とよく遊びに行っていました。

そのバーにはターンテーブルが2台置いてありました。

当時のオイラはすでにかなりの枚数のレコードを持っていて、家では2台のターンテーブルを使ってDJの真似事をしていました。

そこであるとき、バーのマスターにお願いして、お店でもレコードをかけさせてもらうことになったんです。

とはいえ、そこはクラブではなく、あくまでバーです。

ダンスフロアがあるワケではありません。

お客さんがお酒を飲みながら会話を楽しむ、その空間のBGMとしてレコードを選ぶ。

少しノリのいい曲をかけると、お客さんがグラスを片手に身体を揺らしていたりする。そんなDJでした。

ありがたいことにマスターにもそれなりに評価してもらえたようで、そのうちお客さんが増える週末に毎回プレイを頼まれるようになりました。

それを半年くらい続けた頃でしょうか。

マスターから、

「今度、お店でダンスパーティをやるんだけど、DJやってみない?」と声をかけられました。

当日はプロのDJも入るので、オイラはいわば前座というかサポート役です。

でもオイラにとっては、初めて「人を踊らせるためのDJ」をする機会でした。

これは嬉しかった。

そして、たぶん相当舞い上がっていたんでしょうね。

初めてのダンスパーティだから、かなり準備した

当日まで、いろいろ考えました。

どんなレコードを持っていこう。

最初はこの辺から入って、途中でこういう曲をかけて、このあたりでテンションを上げよう。

この曲からこの曲へつないだらカッコいいんじゃないか。

そんなコトを考えながら、自分なりにかなり綿密に準備しました。

今考えれば、それまで半年ほど人前でDJをしてきたという自負も、少しあったのだと思います。

もちろんクラブDJの経験はありません。

でも毎週のようにバーでレコードをかけ、お客さんも楽しそうにしてくれている。

「まぁ、オイラもそれなりにできるだろう」ってどこかでそんなふうに思っていたのでしょうね。

そして当日。

オイラがトップバッターとしてDJブースに入りました。

お店にはすでに30〜40人くらいのお客さんが入っていました。

最初はまだパーティが始まったばかりですから、フロアが硬い。

まあ、そのうち誰か出てくるだろう。

そう思ってレコードをかけ続けました。

ところが、なかなか誰も踊らない。

10分。

20分。

30分。

相変わらず誰も出てこない。

お客さん自体はいるんです。

みんな飲んだり話したりしている。

でも、フロアだけが見事に空いている。

眩しいライトが誰もいないフロアを照らしていて、そこにオイラの選んだテンポの速い、ノリのいい曲だけがガンガン鳴っている。

「ヤバい……」

だんだん冷や汗が出てきました。

誰も踊っていない。もう逃げ出したかった

人間、焦るとダメですね。

「次こそは」

と思って別のレコードをかける。

でも誰も出てこない。

「じゃあ、これはどうだ」

やっぱりダメ。

そうすると今度は、選曲だけではなくミックスまで失敗し始めます。

頭の中がだんだん真っ白になってくる。

家で練習していた時には普通にできていたコトまで、全然できなくなる。

そして心の中に浮かんできたのは、

「もう逃げ出したい…」

という気持ちでした。

今となっては笑い話ですが、その時は全然笑えるような状態じゃありません。

自分が「いい」と思って選んできたレコードをかけているのに、誰も反応してもらえない。

しかも、目の前にその結果がずっと見えている。

DJというのは、なかなか残酷です。

レコードをかけた結果が、人のカラダの動きとしてダイレクトに返ってくるコトがあります。

もちろん、人が踊らない理由なんていくらでもあります。

時間帯もあるし、お酒を飲みたい人もいる。友達との会話が盛り上がっているのかもしれない。

だから「誰も踊らない=全部DJが悪い」と単純に言うコトはできないと思います。

それでも、あのときのオイラにはそんな冷静な分析をする余裕なんてありませんでした。

ただ、

「ダメだ…」

と思っていました。まぁ〜DJしているそんな焦っている様子がお客さんにも伝わっていたのかもしれませんね。

そんなオイラの様子を見ていたプロのDJが、

「変わろうか?」

と声をかけてくれました。

本来の持ち時間は1時間でしたが、オイラはそこで早々に交代しました。

たった3曲くらいで、景色が変わった

ココからが、さらにキツかった(笑)

交代したプロのDJは、まずマイクを持ちました。

軽口を叩きながらお客さんに挨拶をして、それからオイラとはまったく違うタイプの曲をかけ始めた。

すると3曲目くらいだったと思います。

お客さんが少しずつフロアへ出てきたんです。

身体を揺らし始める人がいる。

また1人出てくる。

そして30分くらい経った頃には、さっきまでの光景が嘘みたいにフロアが盛り上がっていました。

オイラはそれを横から見ていました。

さっきまで自分が何をやっても動かなかった人たちが踊っている。

コレは効きましたねぇ(笑)

でも、その光景を見て分かったコトもありました。

それまでオイラは、バーのBGMとしてのDJを半年ほど経験していました。

その時は、それなりにお客さんも楽しんでくれていた。

だから「DJができる」と思っていた。

でも、バーの空気を音楽で作るコトと、ダンスパーティで人をフロアへ誘うコトは同じではなかった。

当時のオイラは、その違いすらよく分かっていなかったんです。

今のオイラなら「もっとお客さんを見ろ」と言う

あれから30年以上経ちました。

オイラはプロのDJになったワケではありません。

今でも「DJとはこうあるべきだ」なんて偉そうに語れる立場だとは思っていません。

あくまでレコードが好きで、趣味としてDJを経験してきたレコード屋のオヤジです。

ただ、もしタイムマシンがあって、あの日DJブースで冷や汗をかいている20代の自分に一言だけ声をかけられるとしたら、こう言うと思います。

「もっとその場のフロアやお客さんをよく見ろよ」って。

あの日のオイラは、準備をしていなかったワケではありません。

むしろ、かなり準備していました。

問題は、その準備のほとんどが「自分が何をするか」だったコトです。

この曲をかけよう。

こういう流れにしよう。

ココでこんなミックスをしよう。

頭の中には自分の計画がいっぱい入っている。

でも、

「今日ここに来ている人たちは、どんな感じなんだろう?」

という視点が完全に抜け落ちていた。

初めてのダンスパーティで、自分にとってはちょっとした晴れ舞台だったから、舞い上がっていたのでしょう。

これはあくまでオイラ自身の失敗からカンジたことですが、自宅でレコードをつないで楽しむコトと、人がいる場所でDJをするコトには、ひとつ大きな違いがあります。

目の前に、自分以外の人がいるコトです。

当たり前なんですけどね(笑)

でも20代のオイラには、その当たり前が見えていなかったんだと思います。

それでも続けていたら「通じた!」夜もあった

そんな苦い経験がありながらも、オイラはレコードを聴くコトも、人前でかけるコトもやめませんでした。

すると当然、逆の経験もするようになります。

自分ではすごくイイと思っているケド、それホド知名度のある曲ではない。

そんなレコードをかけた時に、知らないお客さんから、

「この曲、カッコいいね!」

と言われたコトがあります。

また別のときには、

「キミ、めちゃ良い曲かけるね!」

と声をかけてくれたお客さんが、ビールをご馳走してくれたコトもありました。

その時は、自分でも納得できるプレイができていました。

だから嬉しかった。

でも今振り返ると、単に「DJを褒められたから嬉しかった」というだけではなかった気がします。

感覚として一番近いのは、

「通じた!」

っていう感覚なんですよね。

オイラがレコード屋でレコードを掘って、家で何度も聴いて、

「この曲、カッコいいなぁ」

と思ったものがある。

それを知らない誰かに聴かせてみる。

すると、その人も、

「これ、カッコいいね」

と言ってくれた。

自分の中だけにあった「この曲が好き」が、レコードを介して知らない誰かへ届いた。

これは1人でレコードを聴いているだけでは、なかなか経験できない喜びです。

もちろん「通じた!」があるなら「全然通じない…」もあります。

30年以上前のオイラが経験したのは、まさにソチラでした。

人前で音楽をかける以上、その両方があるのでしょう。

12インチシングルを「プレイする」という面白さ

これはレコード、特にDJカルチャーと深く結びついてきた12インチシングルの面白さにもつながります。

12インチシングルには、アルバムとはまた違う楽しさがあります。

同じ曲でもExtended Mix、Dub、Instrumental、Acapellaなどが収録されていたりする。

イントロやブレイクが長く作られていて、DJが次の曲へミックスしやすいバージョンもあります。

レコードを普通に1曲ずつ聴いているだけなら、

「こっちのバージョンはイントロが長いな…」くらいに思っていたモノが、DJをやってみると意味が変わって見えてくるコトがあります。

「ナルホド、ここ部分を上手く使って次の曲へミックス出来るのか」とか、

「このDubから別の曲につないだら面白そうだな」とか。

レコードに刻まれている音は同じなのに、聴き方が変わる。

これはメチャ面白いんですよね。

今はスマホ1台あれば、好きな曲を次々と再生できます。

それは便利だし、オイラだってデジタルで音楽を聴きます。

でもレコードの場合、1枚を棚から抜いて、ジャケットから取り出し、ターンテーブルへ載せ、針を落とす。

DJなら、その間に次のレコードを探す。

ジャケットを見ながら、「次、ナニをかけようかな〜」って考える。

そして2枚のレコードの間に、自分なりの関係を作ってみる。

1曲ずつなら何度も聴いたレコードなのに、前後の曲が変わるだけで妙に新鮮に聴こえるコトがあります。

オイラにとって、これもアナログレコードでDJをする面白さのひとつであると思います。

DJって、別にクラブだけでやるものじゃない

だから今回のお客さんのハナシを聞いていて、少しもったいないなと思ったんです。

彼がDJに興味を持った最初のキッカケはナンだったのか。

大きなクラブでDJが何百人もの人を踊らせている姿を見て、

「オレもあそこに立ちたい!」

と思ったワケではありません。

友人の家でDJを聴いたコトなんです。

だったら、まずはそこからでいいんじゃないでしょうか。

家でやればいい。

自分の好きなレコードを2枚並べて、

「コレとコレ、上手くつながるかな?」

と試してみる。

うまくいかなかったら、もう1回やる。

誰も見ていないんだから、いくら失敗したって構いません。

「この2曲、意外と合うな」

ナンて組み合わせを見つけるだけでも面白いと思うんですよ。

好きな曲を何曲かミックスして録音し、スマホに入れて自分で聴いてみるのもイイ。

通勤や散歩の時、自分で作ったミックスを聴いてみると、普通のプレイリストとはまた違った楽しみがあります。

DJというコトバを聞くと、どうしても「クラブ」「大勢のお客さん」「フロアを盛り上げる」といったイメージが先に来るかもしれません。

でも、それだけがレコードをプレイする楽しみではないと思うんです。

「聴く」から「プレイする」へ

レコード屋をやっていると、当然ですが「レコードを聴く」というハナシをするコトが多くなります。

この盤は音がイイ。

このプレスは珍しい。

この12インチには、この盤にしか入っていないミックス収録されている。

このベースラインがカッコいい。

そんなハナシをお客さんとするのは楽しいものです。

でもDJを少しやってみると、それまでとは別の耳でレコードを聴くようになるコトがあります。

「イイ曲だな」

だけではなく、

「この曲の前にはナニをかけたら気持ちイイだろう?」

「このイントロを使ったらどうなるだろう?」

「このブレイクから、あのレコードへ行けないかな?」

そんなコトを考えるようになる。

すると、それまで棚で眠っていたレコードが急に面白くなるコトもあります。

今までまったく聴かなかったバージョンが突然、カッコよく聴こえたり「こんな使い方があったのか」って気づくコトもあったりと。

これは、レコードの価値を値段や希少性とはまったく別の方向から発見するコトでもあります。

高価なレア盤じゃなくてもイイんです。

渋谷のオイラの店で何百円、何千円で見つけた1枚が、自分のDJの流れの中ではものすごく重要な1枚になるかもしれない。

ダレも知らないような12インチが、前後のレコードとの組み合わせによって突然輝くコトだってある。

そういう経験をすると、レコード屋の棚を見る目まで少し変わってきます。

「有名な曲を探す」だけではなく、

「コレ、どうやって使ったら面白いかな?」

っていう視点が加わるからです。

そうなるとレコード探しは、さらに沼です(笑)

レコード屋としては困ったコトに…イヤ、ありがたいコトに、でしょうか。

BEE GEES / YOU SHOULD BE DANCING
BEE GEES / YOU SHOULD BE DANCING の試聴
next recordsのサイトでBEE GEESのレコードを探してみる

怖さだけで、その扉を閉じなくてもいいんじゃないかな

今回のお客さんが見た光景は、確かに怖かったと思います。

自分が「DJをやってみたい」と思い始めたタイミングで、友人がレコードをかけたらフロアから人がいなくなってしまった。

「自分もあそこに立ったら同じコトになるんじゃないか」

そう思うのは自然です。

オイラなんて実際にそれをやりましたからね(笑)

ダレも踊らないフロアを前に冷や汗をかいて、「もう逃げたい」と思って、最後にはプロのDJに助けてもらった。

だから、「そんなの気にしなくていいよ」とは言えません。

気になります。

それにタブン、かなり凹みます。

でも、30年以上経った今だから思うコトもあります。

あの夜だけを経験してDJをやめていたら、オイラはその後の「通じた!」という瞬間も経験しなかったでしょうね。

自分がイイと思って選んだレコードを知らないダレかも「イイ」と思ってくれる。

あの喜びは、人前でレコードをかけたからこそ知るコトができましたしね。

とはいえ、今回のお客さんに、

「だから勇気を出してクラブでDJしなよ!」

と言いたいワケではありません。

DJとはこうするべきだ、なんてハナシでもありません。

オイラ自身、プロのDJではなく、ちょっとDJを経験してきたレコード屋の店主にすぎません。

ただ、レコードには「聴く」以外にも、まだイロイロな楽しみ方があります。

2枚のレコードをつないでみる。

順番を変えてみる。

ミックスして録音してみる。

友人に聴かせてみる。

そして、いつか人前でやってみたくなったら、その時に挑戦してみればいいと思うんですよ。

もしかしたらダレも反応してくれないかもしれない。

でも、もしかしたら自分が大好きなレコードに針を落としたとき、知らないダレかがカラダを揺らし始めるかもしれない。

そして、

「今の曲、ナンですか?」

って訊いてくれるかもしれません。

その時に初めて解るレコードの面白さもあります。

せっかく「レコードをプレイしてみたい」と思ったのなら、怖い光景を一度見ただけで、その扉まで閉じてしまわなくてもいいんじゃないかなぁって思うんですよね。

まずは家で好きなレコードを2枚、ターンテーブルにノセてみる。

そこからで十分ですだと思います。

「聴く」だけだったレコードを、自分で選んで「プレイする」。

その瞬間から、今まで何度も聴いてきた1枚が、ちょっと違った顔を見せてくれるかもしれません。

一度くらい、ターンテーブルの向こう側から音楽を楽しんでみるのも、なかなか面白いものですよ。


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