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「33回転と45回転、ドッチが音イイんですか?」

最近、渋谷の店舗にご来店いただくお客さんを見ていると、

「最近レコードを聴きはじめました」

というカンジの若いお客さんが以前より増えてきたように思います。

当店はオリジナル盤の中古レコード、それも12インチシングルを専門に扱っているので、レコード店の中でもかなりマニアックな品揃えのお店だと思います。

だから初めてご来店いただいたお客さんが店内のエサ箱をぐるっと見て、

「知っているレコードが1枚もナイ…」となってしまうコトもあります(笑)。

だけど逆に、たまたま知っている曲を見つけて12インチシングルを購入し、自宅で聴いてみたら、

「ナンだコレ!? メチャ、音イイじゃん!」

となって、それから12インチシングルに興味を持って再びご来店いただくというそんなお客さんもいらっしゃいます。

コレは12インチシングル専門店をやっているオイラとしては、ホントうれしいですね。

そんな最近レコードを聴き始めたお客さんから訊かれる質問のひとつに、

「レコードって33回転と45回転がありますよね。ドッチのほうが音がイイんですか?」

というものがあります。

コレ、かなりイイ質問なんですよ。

オイラだったら、まずこう答えます。

「レコードの物理的な特性で言えば、45回転のほうが高音質で音溝を刻むために有利な条件を持っていると言われています」

すると、

「じゃあ45回転のほうがイイんですね!」

となりそうですが…ちょっと待ってください。

オイラは続けて、

「ナンだけど、33回転と45回転だったら45回転のほうが必ず良い音なのかというと、実際はそんな単純なハナシじゃないんですよね〜」と言います。

「エッ? ナンでですか?」ってやっぱりそうなりますよね。

実はココからが、アナログレコードの面白いトコロなんです。

今回は33⅓回転と45回転という、一見すると単なるレコードの「回転速度」の違いから、12インチシングルの音質、US盤とUK盤の違い、そして最後には、「そもそも良い音ってナンなんだろう?」という部分にまでちょっと掘り下げてみたいと思います。

33⅓回転と45回転って、そもそもナンの数字?

まずはレコードに詳しくない人のために基本的なハナシから。

一般的なLP、つまりアルバムは、ほとんどが33⅓回転です。

一方、小さな7インチシングル、いわゆる「ドーナツ盤」は45回転のものが多いですよね。

ちなみに以前、若いお客さんに、「ドーナツ盤」と言ったら、「ドーナツ盤? ナンですか、ソレ?」と訊かれたことがあります。

そりゃそうですよね〜今の若い人には「7インチ」と言ったほうが通じるのかもしれません。

別にドーナツで出来たレコードじゃありませんよ(笑)。

レコード中央の穴、センターホールが大きく開いていて、見た目がドーナツみたいだから「ドーナツ盤」と呼ばれているワケです。

さて、33⅓回転、45回転という数字は、レコードが1分間に何回転するかを表しています。

33回転とよく言いますが、正確には33と1/3回転です。

LPなら33⅓rpm。

7インチなら45rpm。

そういうイメージを持っている人も多いと思います。

ところが、当店でメインに扱っている12インチシングルになると、この法則が通用しません。

同じ直径約30cmの12インチ盤なのに、33⅓回転のものもあれば45回転のものもある。

しかも同じ曲なのに、US盤は33⅓回転、UK盤は45回転なんていうことまであります。

初めて12インチシングルを買った人が、

「ナンで?」

と思うのも当然ですよね。

45回転のほうが音質面で有利になる「線速度」のハナシ

では、ナンで一般的に45回転のほうが音質面で有利と言われるのでしょう?

ここで出てくるのが、「線速度」というワードです。

いきなり理科の授業みたいになってきましたね(笑)。

でも考え方自体は、それほど難しくありません。

33⅓回転と45回転なら、45回転のほうがレコード盤は速く回転しています。

ということは、同じ1秒間でも45回転のほうが、より長い音溝がレコード針の下を通過することになります。

レコードに収録されている音楽は、この音溝に刻まれた細かな変化を針がトレースすることで再生されます。

だったら、同じ1秒分の音楽を記録するとき、使える溝の長さに余裕があるほうが有利ですよね。

45rpmは33⅓rpmより線速度が高くなるため、特に高域などを記録・再生するうえで有利な条件を持っています。

だから、「45回転は音質面で有利」と言われるワケです。

ココだけ聞くと、

「なるほど。じゃあ高音質で聴きたかったら45回転を買えばイイのね」

となりそうです。

だけどレコードは、そんなにカンタンじゃないんですよ。

だったら全部45回転にすればイイじゃん!

45回転には音質面で有利な条件があります。

だったらLPも12インチも全部45回転にしてしまえばイイじゃないかってそう思いますよね。

トコロが回転が速くなればなるほど、同じ大きさのレコード盤に収録できる時間は短くなります。

45回転では音溝をドンドン使ってしまうからですね。

逆に33⅓回転なら、同じ盤面を使ってより長い時間の音楽を収録できます。

アルバム(LP)というフォーマットにとっては、複数の曲を片面に収録できることが非常に重要です。

だから33⅓回転が適しているワケです。

12インチシングルにも同じことが言えます。

たとえば音質だけを優先して、

A面に1曲。

B面に1曲。

しかも45回転。

コレは音質を追求するうえでは、かなり贅沢な使い方です。

でも33⅓回転にすることで、

Original Version
Extended Version
Remix
Instrumental
A Cappella

なんて複数のバージョンを収録できる。

コレもまた12インチシングルの大きな魅力なんですよ。

Remix好きのオイラとしては、

「45回転片面1曲! 音質重視!」

という盤にもソソられますが、

「エッ!? このRemixも、このDubも入ってるの?」

なんていう33⅓回転盤にも猛烈にソソられます(笑)

つまり音質と収録時間は、ある意味トレードオフの関係にあります。

33⅓回転だからダメ。

45回転だから正解。

そんな単純なものではないんですね。

レコードは外側と内側でも条件が違う

さらにレコードには、もう1つ面白い物理的な制約があります。

レコードは円です。当たり前ですね(笑)

そして針は盤の外側から内側へ向かって、渦巻き状の音溝をトレースしていきます。

ココでちょっと想像してみてください。

大きな円を一周する距離と、小さな円を一周する距離。

当然、大きな円のほうが長いですよね、レコードも同じです。

同じ回転数で回っていても、盤の外側では1回転する間に針の下を通過する音溝の距離が長くなる。

ところが内側へ行けば行くほど円周が短くなるので、同じ時間でも針の下を通過する溝の長さが短くなります。

つまり盤の外周部分のほうが、内周部分より音を記録・再生するうえで有利な条件を持っているワケです。

反対に、レーベルのギリギリ近くまで音溝が刻まれている盤では、内周へ行くほど条件が厳しくなっていきます。

音溝が内側にまで来ると外側に比べて音が歪んでくるんですよね。

音楽をたくさん詰め込みたい。でも音質も維持したい。

レコードというメディアは、常にそういう物理的な制約とのせめぎ合いなんですよね。

レコード屋は盤面を見て「コレ、音良さそうだな」と思う

オイラは仕事柄、毎日のように大量の12インチシングルを見ています。

そうすると盤面を見ただけで、

「おっ、コレ音良さそうだな〜」

と期待してしまうことがあります。

たとえば片面1曲の収録で盤の端から中程くらいまでに音溝が刻まれていて、溝と溝の間隔が目で見てもハッキリ分かるくらい余裕がある。

こういう盤を見ると、

「コレ、イイ音で鳴るんじゃないの?」

って思っちゃうんですよ。

逆に曲自体は大好きなのに、片面に4バージョンくらいギッシリ収録されていて、レーベルの近くまで細かな音溝が続いている。

そうすると、

「イイ曲なんだけど、音質的にはちょっと厳しそうだな…」

と思うこともあります。

レコードを買うときにジャケット、レーベル、盤のコンディションを見るっていうのは普通ですよね。

でも12インチシングルにハマってくると、

「音溝を見る」

という楽しみまで出てきます。

溝の刻まれ方を見て、

「コレは45回転で片面1曲か……期待できるな」

なんて考える。

こうなると相当マニアックですケドね(笑)

でもコレがまた面白いんです。

ところが、実際に針を落とすと、

「アレ…?」となるコトもある。

反対に、スペック的にはそれほど期待していなかった盤から、「ナンだコレ!?」という音が飛び出してくるコトもある。

ココから先は、物理の教科書だけでは説明できない世界です。

レコードの音は回転数だけでは決まらない

45回転のほうが物理的に有利、音溝にも余裕がある、外周をメインに使っている…そういう条件が揃えば、高音質なレコードを作るためには有利でしょう。

だけど、それだけで最終的な音が決まるワケではありません。

そもそも、その曲をアーティストやプロデューサーがどういう音で鳴らしたかったのか。

レコーディングエンジニアがどういう音を作ったのか。

そして、その音源をレコード盤へ落とし込むときに、どんな判断が行われたのか。

カッティングの技術もあります。

使用された音源の違いもあります。

収録時間もあります。

カッティングレベルもあります。

いろいろな要素が重なって、最終的に1枚のレコードになる。

だからレーベルに、「45 RPM」と書いてあるからといって、

「ハイ、こっちの勝ち!」とはならないんです。

「ホントに45回転のほうが音イイの?」と思って聴き比べてみた

オイラ自身、物理的な理屈として45回転が有利なのは理解できます。だけど長年レコードを聴いていると、

「ホントに45回転のほうが音イイのかな?」と思うコトがありました。

だったら聴き比べてみればイイ、レコード屋ですから、幸いそういう機会には恵まれています。

同じ曲で同じバージョン。でもUS盤とUK盤で回転数が違う。

そんな12インチを、お店の同じオーディオシステムで聴き比べてみる。

ちなみに当店のオーディオは、かなりドンシャリ気味のセッティングです。

そんな環境でイロイロ聴いていると、特にUSプレスの33⅓回転盤で、低域の重量感や押し出しが、

「コレ、スゴいな…」と感じる盤が出てきます。

そこで気付くワケです。

理屈は理屈なんだなぁって。実際にスピーカーから出てくる音は、そんなに単純じゃないぞ、と。

Rufus & Chaka、針を落とした瞬間「ぐわっ!!」

その代表的な1枚が、

Rufus & Chaka / Do You Love What You Feel


この曲にはUSプレスの33⅓回転12インチと、UKプレスの45回転12インチがあります。

回転数だけ見れば、

UK盤=45rpm
US盤=33⅓rpm

です。

ココまでこの記事を読んだ人なら、

「じゃあUK盤45rpmのほうが有利なんでしょ?」って思いますよね。

トコロがオイラが好きなのは、圧倒的にUS盤33⅓回転です。

レコード針を置いた瞬間、冒頭のドラムブレイクが「ぐわっ!!」っと前へ飛び出してくる。

その瞬間、「うおっ! キタっ!」となります。

音が鳴った瞬間に、身体をグッと音楽の中へ引っ張られるような押し出し感がある。

コレはUK盤と何度も交互に聴いて、

「コッチのほうがちょっとイイかな〜」なんていう微妙な違いじゃないんですよ。

US盤だけを単体で聴いても、

「この盤、メチャクチャ音イイなっ!」っていうレベルなんですよ。

オイラの経験でも、こういう盤はそんなに多くありません。

そして面白いのが、曲そのものまで良く聴こえてくることです。

モチロン元々素晴らしい曲ですが、音質の良さが曲の魅力をさらに押し上げているんですよね。

音が良いことで、

「この曲って、こんなにカッコ良かったのか!」って再発見させられる。

こういう瞬間があるから、レコードは面白いんですよね。

もしUS33⅓rpmとUK45rpmのドッチか1枚しか所有できないと言われたら、オイラはUS盤を選びますね。

理論上有利な45rpmではなく、33⅓rpmを選ぶ。

コレだけでも「回転数だけで音質は決められない」というコトが解ると思います。

じゃあ33回転のほうがイイの?…それも違うんです

ココまで読んで、「ナンだ、結局33⅓回転のほうがイイんじゃん!」と思った人。

違うんですよ(笑)

今度は反対の例です。

Michael Jackson / Billie Jean


あまりにも有名な曲ですね。

この曲にもUSプレスの33⅓回転12インチと、UKプレスの45回転12インチがあります。

そしてBillie Jeanに関しては、オイラはUK45回転盤の音が好きです。

Billie Jeanの音空間に自分が立っているような感覚

Billie Jeanは、そもそもアルバムに収録されている音自体もかなりイイと思います。

だけどUK45回転12インチをある程度の音量で鳴らすと、また違った感覚があります。

あの特徴的なイントロのドラム。

そこから徐々に音が重なっていきますよね。

UK盤45rpmで聴いていると、それぞれの音が単純に左右へ広がるだけではなく、立体的に配置されていくように感じる。

そして気が付くと、「Billie Jeanという曲の音空間の中に自分が立っている」みたいな感覚になるんです。

広がりがある。抜けがイイ。音が立体的。

オイラにとっては、「コレは気持ちイイな〜」と思える音です。

もしUS33⅓回転とUK45回転のドッチか1枚だけ残せと言われたら、Billie JeanについてはUK盤を残します。

トコロが当店の別のスタッフは違った評価をしていて「US盤のほうがイイ」と言うんです。

US33⅓rpmにはUK盤とは違う太さがあります。

特にイントロのドラム。ドンッと前へ押し出してくるようなインパクトがあって、ファットで迫力がある…クラブ的な鳴り方という表現が近いかもしれません。

オイラはUK45回転

スタッフはUS33⅓回転

同じ曲。

同じ店。

同じ再生環境。

それでも答えが分かれる。

コレって、かなり重要なコトだと思うんです。

「高音質」と「好きな音」は同じなのか?

ここで一度、「音が良い」というコトバについて考えてみましょう。

オイラ自身、長年このことを考えてきました。

そもそも「良い音」ってナンなんでしょう?

解像度が高い音?

高域がキレイに伸びている音?

低域が太い音?

音圧がある音?

抜けがイイ音?

音場が広い音?

ダイナミックな音?

全部「良い音」の要素として使われます。

でも、どれを一番重視するかは人によって違います。

本来なら、その作品の音を最終的に決定したアーティストやプロデューサー、エンジニアたちが、

「よし、この音にしよう」

と決めた音を、そのまま何の加工も加えず再現した音が「良い音」と言えるのかもしれません。

でも現実には、その音楽が再生される環境は千差万別です。

Aさんの家とBさんの家ではスピーカーが違う。

アンプも違う。

カートリッジも違う。

部屋の広さも違う。

スピーカーの置き方も違う。

聴く音量も違う。

そして、聴く人の好みまで違う。

そう考えていくと、「良い音」を1つの絶対的な基準だけで評価すること自体が難しくなってきます。

だからオイラは「実際に聴いた人が“良い音だなぁ”と思った音が、その人にとって良い音なんじゃないか」って思うようになりました。ちょっと理屈っぽいですケドね(笑)

Billie Jeanでオイラとスタッフの好みが分かれるのも当然なんです。

オイラはUK盤の広がりや立体感に惹かれる。

スタッフはUS盤の太さと押し出しに惹かれる。

どちらかが正しくて、どちらかが間違っているワケじゃないんですよ。

むしろ、「オレはコッチ!」と言えるコト自体が、レコードを聴き比べる楽しさなんじゃないでしょうか。

Tears For Fearsの45回転で感じた「キレイな音」

もう1枚、オイラが印象に残っている45回転の12インチがあります。

Tears For Fears / Sowing The Seeds Of Love


UKプレスの45回転盤です。

この曲がリリースされたのは1989年で時代的には、音楽メディアの主役がレコードからCDへ移り変わっていく頃ですよね。

このUK盤12インチも、かなり音がイイんですよ。

ただ、Rufus & ChakaのUS盤とは「良さ」の種類が全然違うんです。

Rufus & Chakaは、「ぐわっ!!」と前へ来る。

一方、Sowing The Seeds Of Loveは、ドラマティックに展開していく曲の細かな音が、まるで粒子になってスピーカーから広がり、自分の周囲を包み込んでいくように感じる。

純粋に「キレイな音だな…」と思うんですよ。

そして、その音によって曲の世界観へ引き込まれていくんですよね。

Rufus & Chakaの「迫力」。

Billie Jeanの「立体感」。

Tears For Fearsの「美しさ」。

全部異なる良さなんだけどオイラにとっては、全部「音がイイ」。

そう考えると、「高音質」というコトバだけでは説明しきれないものがあるんですよね。

US盤にはUS盤らしい音がある…ように感じる

長年いろいろな国でプレスされた12インチシングルを扱っていると、

「US盤とUK盤って、やっぱり音の傾向が違うよな〜」と感じることがあります。

ただ、ココは誤解してほしくないトコロです。

「US盤は必ずこういう音」

「UK盤は絶対こういう音」

と断言するつもりはまったくなくって、曲によって違うし、レーベルによっても違う、カッティングによっても違うのであくまでもオイラが大量の盤を聴いてきた中で持っている、ボンヤリとした印象です。

そのうえで言うと、UK盤やEU盤には華やかで広がりのある音に感じる盤が比較的あり、US盤にはUK/EU盤よりファットでふくよかな音に感じる盤があります。

特にUS盤の12インチには、「コレ、大きな音で鳴らしたら気持ちイイだろうな〜」って思わせる盤があるんですよ。

Promo Onlyの12インチが教えてくれるクラブの音

1970〜80年代の12インチシングルを見ていると、世間的には大ヒットした有名曲なのに、USでは一般販売用の12インチリリースされず、DJやラジオ局などへ配布されたPromo盤しか存在しないタイトルが結構あります。

12インチシングルというメディア自体が、DJやダンスミュージックの現場からのニーズによって発展してきた歴史を持っています。

そういうPromo盤を聴いていると、

「コレ、ダンスフロアで映える音だな」って感じるモノがあります。

一般家庭でボーカル曲を聴くのであれば、ボーカルが自然に浮き出て聴こえるようなバランスを好む人も多いでしょう。

でもダンスフロアでは、低音、中音、高音がメリハリよく鳴って、キックがカラダへ響く。

大きな音量で鳴らしたときに、曲の存在感がイッキに立ち上がる。

そういう音が気持ちイイ。

モチロン、制作側が実際にどんな意図でその盤を作ったのか確認できないものまで、「これは絶対ダンスフロア用にこういう音にした!」と断定することはできません。

ただ、長年そういう盤を実際に聴いていると、

「ダンスフロアで鳴らすコトを意識したんじゃないかな」と思わせるサウンドの12インチに出会うコトは確かにあります。

コレも12インチシングルならではの面白さだと思います。

そもそもオイラが12インチにハマったきっかけ

今でこそ渋谷で12インチシングルを専門に扱う中古レコード店をやっていますが、最初から12インチの音質について詳しかったワケではありません。

むしろオイラ自身も、最初は、

「同じ曲なら、どのレコードで聴いても同じ音でしょう」って思っていました。

12インチシングルをメインにコレクションする前は、普通にLPや7インチシングルを買って、自宅で聴いて楽しんでいたんです。

高校生の頃、いつも聴いているアルバムの中に、とても好きな曲がありました。

ある日、たまたまラジオを聴いていると、その大好きな曲が流れてきたんですよ。

トコロが、いつもとアレンジが違うんですよ。

「アレ?」曲が長い、しかも単純に後ろへ引き伸ばされているワケじゃない。

知っているハズの曲なのに、展開が違う。

それが12インチシングルに収録されたExtended Versionでした。

コレにはヤラれましたね〜「ナンだ、このバージョン!?」って。

当時の日本では、12インチシングルは今以上に一般の音楽ファンにとってメジャーな存在ではなかったと思います。

オイラはその曲の12インチが欲しくなって、輸入レコード店へソッコーで買いに走りました。

そして自宅へ持ち帰り、レコード針を落とした。

すると、いつも聴いていた自宅のオーディオから、それまでとはまったく違うような迫力の音が出てきた。

「ナンだっ!? この音はっ!?」って、本当に驚いたんです。

スピーカーもアンプも同じ、部屋も同じで曲も同じ…なのに音の印象が全然違う。

この体験によって、「同じ曲なら同じ音」というオイラの思い込みは、一発で壊されました。

「やっちまった!」が、さらに深い世界への入口になった

それからレコードを買うとき、12インチシングルを選ぶことが増えていきました。

輸入レコード店へ行くと、また新しい疑問が出てきます。

同じ曲なのにUS盤とUK盤がある、ジャケットも違う、レーベルも違う…だけど同じ曲が一緒に売られている。

でも当時は高校生で自由に使えるお金なんて限られています。

US盤を1枚買ったあとに「じゃあ比較用にUK盤も買おう!」なんてことは、なかなか出来ません。

ところがある日、すでにUS盤で持っている12インチを、ジャケットデザインが違ったため別のレコードだと思い込んで、UK盤でも買ってしまったんです。

家に帰ってそのことに気付いて、

「やっちまったっ!」ですよ(笑)

同じ曲を2枚買ってしまった。

お金のない高校生にとっては結構なショックです。

ところが、せっかく買ったのでとりあえず盤を見比べてみるとUS盤とUK盤で回転数が違うんですよ。

片方は33⅓rpmでもう片方は45rpmという表記です。

「へぇ〜、同じ曲なのに回転数まで違うんだ」と思いました。

でも当時のオイラは、「同じ曲だし、同じExtended Versionなんだから、音は一緒だろうな…」くらいに思っていました。

それでもせっかくだから聴き比べてみた。

すると、「エッ!?なんか音が違う。かなり違うぞコレ…」

自宅のスピーカーが別のものに変わったのかと思うくらい、音の印象がガラリと違ったんです。

今なら回転数、線速度、カッティング、マスタリングなど、いろいろな理由を考えることができます。

でも当時はインターネットもないし、レコードについて調べようと思っても、今みたいに検索すれば何でも出てくる時代じゃありません。

だから、「ナンで違うのか分からない。でも確実に違う」という経験だけが残ったんですよ。

そして、それがメチャ面白かった。

今考えてみると、間違えて同じ曲を2枚買ったあの「やっちまった!」が、オイラをさらに12インチシングルの深い世界へ連れていった出来事だったのかもしれません。

12インチシングルはDJだけのモノなのか?

12インチシングルというと、「DJが使うレコードでしょ?」と思っている人もいるでしょう。

確かに12インチシングルの歴史を考えれば、DJやクラブ、ダンスミュージックとの関係を切り離すコトはできません。

でもオイラは、DJをしない普通の音楽ファンにも12インチシングルをもっと聴いてほしいと思っています。

考えてみてください。

直径約30cm。

LPと同じ大きさの盤面です。

LPならそこへ片面5〜6曲くらい入れるところを、12インチシングルでは1曲しか入っていないことさえある。

30cmのレコード盤を、たった1曲のために使う。

コレってかなり贅沢だと思いませんか?

しかも、その1曲を大きなクラブのサウンドシステムでも鳴らせるようなレベルで作られた盤がある。

そんなレコードを自宅へ持ち帰って、自分のオーディオでじっくり聴けるってコレってある意味、メチャクチャ贅沢な音楽の楽しみ方だと思うんですよ。

「同じ曲を何枚も持ってどうするの?」への答え

レコードにそれほど興味がない人からすると、「同じ曲のUS盤とUK盤を両方持って、どうするの?」と思うでしょう。

オイラも高校生の頃なら、そう思ったかもしれません。

でも今なら、「同じ曲だから面白いんですよ」と答えるコトが出来ます。

曲が同じだからこそ、違いが分かる。

33⅓rpmと45rpm、US盤とUK盤、アルバムと12インチ、Original VersionとExtended Version…それぞれを聴き比べると、

「このベース、こんなに太かったのか」

「こっちはボーカルが前へ出てくるな」

「この盤は音が横へ広がるな」

「このドラム、メチャクチャ気持ちイイな」

ナンてカンジでそれまで気付かなかったモノが見えてくる。

そして、その違いに気付いた瞬間、大好きだった曲をもう一度新鮮な気持ちで聴けるんです。

コレがレコードコレクションの醍醐味の1つだと思います。

物理を知るのは「正解」を決めるためじゃない

今回、33⅓回転と45回転についてかなり細かく書いてきました。

線速度。

収録時間。

外周と内周。

音溝の余裕。

ここまで読むと、

「じゃあ高音質盤を見つけるための条件を全部覚えればイイのね」って思うかもしれません。

でもオイラは、そういうことを言いたいワケではありません。

知識は「このレコードが正解、このレコードは不正解」と決めるためのモノではないと思っています。

むしろ、「ナンでこの盤はこんな音がするんだろう?」と考えるためのヒントです。

45回転だから期待して聴いたら、本当にスゴかった…それも面白い。

45回転だから期待していたのに、33⅓回転盤のほうが自分には気持ち良かった…コレも面白い。

物理的な理屈を知っているからこそ、予想が外れたときに、「ナンでだ!?」となる。

そして別の盤を聴いてみたくなる。

レコードって、そうやってどんどん深みにハマっていくんですよね(笑)

33回転/45回転、結局ドッチがイイの?

まぁ〜コレまで長々と述べてきたトコロで最初の質問へ戻りましょう。

「33回転と45回転、結局ドッチがイイんですか?」

オイラの答えはこうです。

レコードの物理的な特性で考えれば、45回転には音質面で有利な条件があります。

でも、「45回転だから必ず良い音」ではありません。

Rufus & Chaka / Do You Love What You Feelなら、オイラはUS33⅓回転盤を選ぶ。

Michael Jackson / Billie Jeanなら、UK45回転盤を選ぶ。

そしてBillie JeanのUS33⅓回転盤を選ぶスタッフもいる。

つまり最後は、

「ドッチが高音質なの?」

ではなく、

「アナタはドッチの音が好きなの?」

なんですよ。

コレがオイラの今の答えです。


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家にある12インチを、もう一度見てみてください

もしこの記事を読んでいる人の家に12インチシングルがあるなら、一度レコード棚から取り出して盤面を見てみてください。

33⅓rpmですか? 

45rpmですか?

片面に何曲入っていますか?

音溝はレーベルの近くまでギッシリ刻まれていますか?

それとも外側から中程くらいまでを贅沢に使っていますか?

今まで、「この曲好きだな〜」とだけ思って聴いていたレコードでも、盤面を見ると新しい発見があるかもしれません。

そしてもし中古レコード店のエサ箱で、すでに持っている曲の別の国の盤を見つけたら「同じ曲持ってるからイラナイ」と戻してしまう前に、ちょっとだけ盤を見てみてください。

「アレ? オレが持ってるの33回転だったよな。コレ45回転じゃん…」

そんなコトがあるかもしれません。

その2枚が、まったく違う表情で鳴るかもしれない。

モチロン、ほとんど違いが分からない可能性だってあります。

それも含めて聴いてみないと解らない。

渋谷の当店には、そんな「同じ曲なのに違う」という12インチシングルがたくさんあります。

US盤。

UK盤。

EU盤。

Promo盤。

33⅓rpm。

45rpm。

一見すると細かくて面倒な違いです。でも、その面倒くささを楽しみ始めたら、もうレコードの深いところへ片足を突っ込んでいるのかもしれません(笑)

オイラ自身、高校生の頃に間違えて同じ曲のUK盤を買わなかったら、ココまで回転数やプレス国による音の違いを面白がっていなかったかもしれません。

「やっちまった!」と思った1枚が、新しい世界を見せてくれたってワケですね。

そういう偶然も含めて、レコードを買う楽しさなんだと思うんですよね。

33回転と45回転、ドッチがイイのか?って理屈を知ることはできます。

だけど最後の答えは、自分のレコードプレーヤーに針を落として、自分の耳で聴いてみないと解りません。

だからこそ面白いと思うんです。

そして、「この盤、ナンかメチャクチャ音イイな…」という1枚に出会った瞬間の楽しさは、やっぱり格別なんですよね〜。

レコードって、ホント奥が深いです。


この記事は、2022年に投稿した下記の記事に加筆、リライトして再編集しました。
「33回転/45回転 ドッチがイイの?」

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