渋谷のレコード店主が感じた「時代の変化」
最近、街を歩いていると「〇〇買い取ります」という文字を見かける機会が本当に増えました。
ソレは貴金属であったりブランド品だったり、はたまたトレーディングカードだったり、フィギュアだったりと極めて趣味性の高い多種多様なアイテムを買い取る業者のカンバンを目にする機会が多くなったような気がします。
オイラは渋谷でオリジナル盤12インチシングル専門の中古レコード店を営んでいますが、正直なトコロ、少し前まではこんな時代が来るなんて想像もしていませんでした。
先日、J-CASTニュースで「買取専門店」が全国的に増えているという記事を読みました。金相場の高騰やリユース市場の拡大、AI査定の普及などを背景に、専門知識がなくても買取業が始められる時代になったという内容です。
- 金高騰と物価高:古い貴金属の高値売却や、不用品を現金化したい需要が増加。
- 低リスク運用:商品はネットや市場ですぐ現金化でき、円安による海外需要も後押し。
- 「目利き」不要:本部の画像査定やAI・分析器の普及で専門知識ゼロでも参入可能。
- 低コスト出店:広い売り場や在庫陳列が不要で、小店舗・少人数で運営できる。
- 大手の優位と淘汰:資金力のある大手チェーンが台頭し、中小・個人店の倒産や廃業が増加。
- 悪質業者に注意:買取競争の過熱に伴い、強引に安く買い叩く「押し買い」トラブルが多発。
- 売却時は1店で即決せず、事前に相場を調べて複数店舗で比較する(相見積もり)ことが大切。
記事を読んで「ナルホドな…」と思う一方で、ちょっと不思議な既視感がありました。
というのも、その数日前にオイラ自身が「レコード業界もまさに同じコトが起きている」と実感する出来事があったからです。
ショッピングセンターで感じた小さな違和感
自宅近くのショッピングセンターが先日リニューアルしました。
新しくオープンしたテナントの中に、大手のリユースショップが入っていたんです。
最初に思ったのは、
「こんなショッピングセンターの一角でリユースショップって採算取れるのかな?」
という素朴な疑問でした。
興味本位で店内を覗いてみると、ブランド品や時計、貴金属などは並んでいるものの、レコードは販売されていません。
ところが、買取品目を紹介するパネルには、しっかりと「レコード」の文字がありました。
おそらく全国展開している企業ですから、この店舗では買い取りだけ行い、レコードの需要のある店舗へ商品を回して販売しているのでしょうね。
ナルホド、そういう仕組みなのか。
そう思った直後に読んだのが、冒頭のニュース記事でした。
「これはレコード業界でも同じ流れが起きているんだなぁ。」ニュースと実体験が頭の中でピタリと重なった瞬間でした。
実は以前、近所のハードオフでも中古レコードの売買についてブログで紹介しましたし、渋谷に借りている倉庫兼事務所の郵便受けにも、「レコード買い取ります」というチラシが頻繁に投函されます。
レコード店の事務所の郵便受けに「レコード買い取ります」というチラシが入っているのは、ちょっと笑ってしまいますが、それだけレコードが一般的な買取対象になったというコトなのでしょうね。
昔、レコードはリユース業界とは別世界だった
でも、少し前までは全然こんな状況じゃなかったんですよ、90年代から2000年代にかけて、音楽メディアの主役は完全にCDでしたからね。
さらに時代が進むと、CDもストリーミングへと置き換わっていきましたし、世界的に見ても、音楽はフィジカルメディアからデジタルへ移行していきました。
そんな中でレコードはどうだったか…。
レコードは専用プレーヤーがなければ聴けません。しかも置き場所も必要です。気軽さではデジタルに到底かないません。
つまり、レコードを楽しむという行為そのものが、とてもマニアックな趣味になっていたんです。
しかもレコードは数十年にわたり膨大な量が生産されてきました。
一方で需要は決して大きくありません。要するにレコードはたくさん存在しているケド、それを購入したいというニーズはホトンドないという需要と供給のバランスが非常に難しく、一般的なリユース商材として考えると効率が悪い商品だったと思います。
だからこそ、ブランド品や時計、貴金属を扱うようなリユース会社がレコードに積極的に参入することはありませんでした。
レコードはレコード屋の世界。
オイラはずっとそう思っていましたし、これからもそういった状況が続いてゆくんだろうなぁと思っていました。
インターネットが変えた「売る」という行為
もちろん、変化がまったくなかったワケではありません。
インターネットの普及はやはる大きな転機だったと思います。
それまでは、不要になったレコードを売るなら近所の中古レコード店へ持ち込むのが一般的でした。
査定額も、ある意味ではレコード店が決める世界です。
ところがネットオークションやフリマアプリが普及すると、個人が自由に値段を付けて販売できるようになりました。
「売る」という行為そのものが、ぐっと身近になったというコトですね。
これはレコードだけでなく、あらゆる中古市場に共通する大きな変化だったと思います。
それでもなお、レコードだけは一般のリユース市場とは少し距離を置いた存在だったように感じます。
トコロがここ数年、その空気が明らかに変わってきました。
世界的なアナログレコード人気。
海外需要の拡大。
円安による輸出需要。
こうした流れの中で、レコードは一般のリユース企業にとっても「無視できない商材」になったんでしょうね。
強力なライバルの出現。でも市場が広がることは悪いことではない
率直に言えば、中古レコード店にとって強力な競合相手が増えたという印象はありますよ。
資金力もあり、広告宣伝力もあり、全国規模のネットワークも持っている…専門店から見れば、決して小さな存在ではありません。
でも一方で、それをネガティブにだけ考えているワケでもないんですよね。
大手企業がレコードを扱うということは、それだけ市場が広がっているということでもあります。
「レコード」が一般の人にも広く認知され、価値ある商材として見られるようになった証拠でもあります。
長い間ニッチな趣味だったレコードに、再びスポットライトが当たっている。
そう考えると、歓迎すべき面もあると思うんです。
専門店だから見える価値がある
とはいえ、レコードという商品は、価格表だけでは測れない世界でもあります。
つい先日、こんな出来事がありました。
あるお客様が、20代の頃にDJとして集めた約1000枚のレコードを長年ご実家に置いたままにしていました。
終活を進めるご両親が整理を考え、TV CMも流れている有名な大手リユース会社へ出張査定を依頼したそうです。
結果は約1000枚で1000円ほど。
しかも査定時間は10分程度。
ご両親は「さすがにコレは安すぎるのでは…」と感じて丁寧に断ると、今度は「では1万円でどうでしょうか」と査定額が一気に10倍になったそうです。
それでも納得できず、最終的に当店へ査定のご相談をいただきました。
実際にそれらのレコードを見ると、そこには人気のオリジナル盤12インチシングルが数多く含まれていました。
オイラはいつも通り、1枚ずつ査定しただけです。
結果として査定額は十数万円になりました。
これは「どちらが良い悪い」というハナシではありません。
レコードという商材は、ジャンルやプレスの違い、収録バージョン、レコードカルチャーなどへの理解によって評価が大きく変わるコトがある、という一例です。
一般的に人気の高い有名なシティ・ポップなら評価できても、ダンスミュージックの12インチシングルとなると、専門知識が必要になる場面も少なくありません。
大手のリユース業者の査定担当者が「US Promo 12だけに収録されている〇〇 Mixがヤバいっ!」なんてコトを知っているとは思いませんしね。
だからこそ、専門店の存在意義があるのだと思っています。
オイラが12インチシングル専門店を始めた理由
そもそも、オイラがレコード店を始めた理由も、そこにつながっています。
昔からオイラは12インチシングルのコレクターでした。
でも、どこのレコード店へ行っても主役はアルバム(LP)で12インチシングルは、あっても棚の片隅に少し置かれている程度でした。
欲しいレコードを探すのに本当に苦労しましたよ。
「12インチシングルだけを真剣に扱う店があればいいのに…。」ってその思いが、お店を始める結果家でした。
今振り返ると、オイラは「良い曲なのに光が当たっていないレコードに光を当てたい」と思っていたのかもしれません。
まぁ〜その気持ちは、今も変わっていませんケドね。
レコード店のシゴトは「橋渡し」をすること
先日、査定に来られたお客様から印象的なコトバをいただきました。
「マニアならではの視点でちゃんと評価してもらえて嬉しかった。」って。
詳しくハナシを訊くと、以前別のお店で査定してもらった際、こだわって集めたマニアックなタイトルがホトンド評価されず、「どうしてこの盤がその査定額なのですか?」って質問しても事務的な対応だったそうです。
当店では、オリジナル盤なのか、どの国のプレスなのか、プロモ盤なのか、収録されているリミックスはナニなのか、そんな細かな違いまで見ながら査定しています。
すると、お客様も自然とコレクションの思い出を話してくれる機会が多くなります。
「あの頃、このレコードを探し回ったんですよ。」
「この盤はPromo盤がなかなか見つからなくて…。」
そんな会話も、レコード店の大切な時間だと思っているんですよね。
オイラにとってレコード店は、単に中古品を売買する場所ではなくって1枚のレコードが持つ価値を理解し、その価値を本当に必要としている次の持ち主へ橋渡しする場所であるようにって思っている部分も結構あるんですよね。
TONGUE 'n' CHEEK / TOMORROW の試聴
next recordsのサイトでTONGUE 'n' CHEEKのレコードを探してみる
これから先、「レコード買い取ります」という看板は、街でもっと増えていくかもしれませんね。
AI査定が進み、全国規模の流通網がさらに整えば、レコードは今よりもっと一般的なリユース品になっていく可能性もあると思います。
それは、長い間ニッチな存在だったレコードが、多くの人に価値を認められるようになった証でもあります。
まぁ〜その流れそのものを否定するつもりはありません。
ただ、レコードには価格だけでは語れない魅力があると思うんですよね。
オリジナル盤であること。
ドコの国でプレスされたのか。
どんなDJに愛されてプレイされたのか。
どうしてその12インチだけに特別なRemixが収録されているのか。
ナンていう、そうした背景まで含めて、レコード1枚1枚に物語があります。
だから専門店の仕事は、単にレコードを買い取るコトではなくって、価値を理解し、そのレコードを本当に欲しいと思っている人へ届けるっていうのもこのビジネスでの大きなミッションであるとオイラは思っているんですよね。
Next Recordsは、これからも、その橋渡し役であり続けたいと思っている次第であります。
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