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気が付けば、お客さんは何時間もレコードを見ている

渋谷でオリジナル盤12インチシングル専門の中古レコード店を営んでいるNext Recordsです。

店の広さは決して大きくありませんが店頭には約6000枚、さらにバックヤードには品出し前のレコードが約2000枚ホド。またストックされたレコードが2万以上という小さな個人店としてはなかなかの物量ですが、大型店と比べれば決して巨大な店ではありません。

そんな小さな店を長年続けていると、毎日いろいろなお客さんが来店してくれます。

常連さんもいれば初めてのお客さんもいます。

最近は世界的なアナログレコード人気の影響もあって、海外からのお客さんもかなり増えました。特にオーストラリア、ヨーロッパ各国、北米からのお客さんが多く、台湾や韓国、東南アジアからのお客さんも来てくれます。

店主としては、買う・買わないは別として、お店に足を運んでいただけるだけでも本当にありがたいことです。

しかし、長年店頭に立っていて、ひとつ不思議に思うことがあります。

それは、「お客さんの滞在時間がとても長い」というコト。

30分はフツーで1時間の滞在も全然珍しくありません。

で、レコード好きな人だと2時間以上レコードを見続ける人もいます。

まぁ〜常連さんだと4〜5時間というコトよくありますケドね(笑)

ご来店いただいたお客さんに熱心にレコードを見てもらえるというのは店主としてはホント嬉しいハナシです。

でも、ふと思うんですよね…「そんなに時間をかけて疲れないのだろうか?」って。


そもそもレコード探しは、とても面倒な趣味である

冷静に考えると、レコード探しというのは非常に手間のかかる行為だと思います。

お客さんの様子を見ていると、

・まず棚からレコードを抜く。

・アーティスト名 & 曲名を見る。

・コメントを読む。

・ジャケットやレーベルに記載されているプロデューサーやリリース年のクレジットをクレジットチェックする。

・さらにスマホを取り出してSpotifyやApple Music、DiscogsやYouTubeを開いて曲を検索する。

・試聴する。

・Wantリストと照らし合わせる。

・そしてまた棚に戻る。

この繰り返しを何度も行うワケです。

サブスクなら数秒で済むコトを、レコード店では何十分も何時間もかけてやっています。

客観的に見ればメチャ効率が悪いですよね…というかむしろ非効率の塊ですよ。

それなのに、多くの人が夢中になっているワケです。

これは改めて考えると不思議な現象ですよね。


実はオイラ自身も、かなり面倒なコトをしている

自分でレコード店を営むくらいなのでオイラ自身も筋金入りの12インチシングル好きなワケです。

だからレコード店に行くと、とにかく全部見たくなります。

本当に全部です。

数千枚あろうが関係ありません…全部チェックしないと気が済まないんですよ。

ナゼか。

それは経験上、思わぬお宝的レコードがドコかに隠れているというコトを知っているからなんですよね。

12インチシングルは、多くのレコード店ではLPと同じ棚に混ざっているコトがあります。

そして、その中に意外なレア盤が紛れ込んでいるたりします。

そういった状況を知っているので見落とせないんですよね。

さらに、欲しかったMixがちゃんと収録されているかとか、ブートレッグではないかとか、盤質は大丈夫かといった確認も徹底します。

正直言ってメチャ面倒ですよ。

でもやってしまうんですよね。

ナゼならやっぱり後悔したくないからなんですよ。

そして、そういう面倒な確認作業も含めて、実は結構楽しんでいる自分がいるのです。


お客さんの負担を減らしたくてQRコード試聴を始めた

そんなお客さんの様子を見ていて、

「もっと簡単に試聴できたらイイのにな〜」って思うようになりました。

以前のお客さんは、気になるレコードを見つけるたびにスマホで曲名を入力して検索していました。

ホント、傍目から見ていて大変そうでした。

そこで導入したのがQRコード試聴です。

当店オリジナルの商品札のQRコードをスマホで読み込むだけで試聴できる仕組みです。

今では多くのお客さんが利用してくれています。

「すごいサービスですねっ!」

「めちゃ便利ですね〜」

「クレイジーだ!」

海外のお客さんからそんな声をいただくこともあります。

ホトンドすべてのお客さんから好評を得ているので店主としては嬉しい限りであります。


トコロが、ひとつ予想外だったコトがある

QRコード試聴を導入した当初は、試聴が簡単になれば、お客さんは短時間で効率よくレコードを探せるようになるだろうってオイラは考えていました。

トコロが現実は少し違っていて、むしろ試聴する枚数が増えたのです。

そして滞在時間もそれホド短くなりませんでした。

便利になったのに、時間は短縮されない…これは興味深い現象でした。

そこでオイラは思ったんですよね…。

もしかするとお客さんは、

「時間短縮そのものを求めていないのではないか?」って。


レコード好きは「買い物」をしているのではなく「発見」を楽しんでいる

店頭でお客さんを観察していると面白い瞬間があります。

お目当てのレコードを見つけた瞬間です。

「おっ!コレはっ!」ってカンジでちょっと仰け反る人。

「オッシャー!キタっー!」って勢いよく棚から抜く人。

「ヨシっ!」ってカンジで小さくガッツポーズをする人。

「これ、ずっと探してたんですよ!」と報告してくれる人。

その姿は、まるで宝探しに成功した人のようです。

考えてみれば、レコード探しは宝探しに近い趣味なのかもしれませんね。

欲しいレコードを見つける喜びや知らなかった曲との出会いに思いがけない発見。

これらは効率だけでは得られない体験になっているんでしょうね。


偶然の出会いはアルゴリズムでは作れない

オイラも過去に探していたワケではないのについつい買ってしまったレコードがあるっていうコトを何度も経験しています。

その多くは店内でたまたま偶然流れていた音楽なんですよね。

「コレ、何て曲ですか?」ってレコード店のスタッフに訊いて、そのまま購入してしまうというパターン。

そんなコトが何度もあるんですよね〜。

もしネット検索だけだったら出会わなかったかもしれません。

SpotifyやYouTubeのおすすめ機能は確かに優秀だと思います。

自分の好みに近い曲を次々と紹介してくれますしね。

でも、それはどこか予定調和でもあります。

似た曲。

近い曲。

好みに合う曲。

メチャ便利です。

しかしレコード店では違います。

予想外の出会いや偶然があって寄り道があります。

そして、その寄り道こそが面白かったりするんです。


効率化の時代だからこそ、非効率が贅沢になる

あきらかに現代は効率化の時代だと思います。

欲しいものは検索すれば出てくるし、音楽もすぐ聴けます。

ネットで注文した買い物も翌日には届きますしね、ホント便利になりました。

でも面白いコトに、人は便利さだけを求めているワケではないようです。

音楽の歴史を振り返ってもそうだと思うんですよ。

レコードよりコンパクトでノイズも皆無、さらに長時間収録できるCDがレコードに変わる存在として登場しました。

さらにそもそもアイテムとして所有すらしなくてもよいサブスクが登場しました。

トコロが今、再びレコードが人気になっているワケです。

合理的に考えればメチャ不思議だと思うんですよ。

なぜ重たいレコードなのか。なぜ針を落とすのか。なぜ棚を何時間も掘るのか。

そこには便利さでは測れない価値があるからなんじゃないかなって思ったりするんですよね。


人は不便さそのものを楽しんでいるのではなく、その過程を楽しんでいるのかもしれない

QRコード試聴を導入すれば、お客さんはもっと効率的にレコードを探せるようになると思っていました。

しかし実際には違いました。

便利になったにもかかわらず、多くのお客さんは相変わらず長い時間をかけてレコードをチェックしています。

もしかすると人は、不便さそのものを求めているワケではないのではないのかなって思ったんですよね。

例えば、誰だって欲しいレコードが最初の1枚目で見つかるなら、その方が楽ですよね。

盤質のチェックもしたくないし、検索する手間もない方が良い、それは間違いありません。

しかし、レコード探しには効率だけでは説明できない魅力があります。

棚を眺めているうちに、当初探していたレコードとはまったく別の作品が気になり始める。

試聴してみたら予想以上に良かったとか、ジャケットに惹かれて手に取った1枚が、その後何年も聴き続けるお気に入りになるとか…。

そんな経験はレコード好きなら誰しもあるのではないでしょうか。

オイラ自身もそうですしね…探していたレコードを買うコトもありますが、それ以上に印象に残っているのは偶然の出会いだったりします。

店内で流れていたレコードにココロを掴まれて、そのまま購入したコトも何度もあります。

もし最初から効率だけを求めていたら、そういう出会いは生まれなかったかもしれません。

そう考えると、人が楽しんでいるのは不便さそのものではなく、

「何に出会うか分からない時間」なのかもしれませんね。


レコード店はこれからも残り続けるのだろうか

もし将来、AIが完璧に好みを分析して、「あなたが好きそうなレコードだけ」を表示してくれる時代が来たらどうなるのでしょう。

正直、オイラには分かりません。

でもひとつだけ思うコトがあります。

ネット通販が普及した時、多くの人は今後は実店舗がなくなるんじゃないかと思っていました。

しかし現実にはレコード店は今も存在しています。

場合によっては、むしろ増えている地域もありますね。

もしかしたら人は商品だけを買いに来ているワケではないのでしょうね。

店の空気感や偶然の出会いに棚を掘る時間…そうした体験もレコードに求めているのかもしれないなぁ〜って思うんですよね。

まぁ、だけどレコードは決してメインストリームにはならないでしょう。

しかしニッチな文化として、これからも生き続けるんじゃないかなぁ〜って気がしています。


BILLY NICHOLS / GIVE YOUR BODY UP TO THE MUSIC
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レコード好きは「探す時間」を買っている

今回改めて考えてみて思ったことがあります。

レコード好きはレコードを買っているだけではなくって、探している時間そのものを楽しんでいる。

だから店内で過ごした1時間や2時間はムダな時間ではなくって、むしろその時間こそが趣味を満喫している時間になっているんでしょうね。

効率化が進んだ時代だからこそ、あえて非効率を楽しむ…それがレコードという文化の面白さなのかもしれません。

今日も世界中のレコード店でダレかが棚を掘っています。

レコードを抜いては戻し、また抜いて、スマホで試聴して、悩んでいる。

でもその表情は辛いわけではなくってドコか楽しそうです。

もしかするとレコードの魅力とは、音楽そのものだけではなく、その音楽に出会うまでの遠回りにあるのかもしれませんね。


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