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こんにちは、渋谷で12インチシングル専門の中古レコード店を営んでいるNext Recordsです。
日々お店に立っていると、レコードを買い始めたばかりのお客さんから、ちょっとした素朴な質問をされるコトがあります。
つい最近も、あるお客さんからこんなコト訊かれました。
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「アルバムは必ずといっていいほど写真やアートが入ったピクチャージャケットなのに、12インチシングルはピクチャージャケットのモノもあれば、ただの無地の穴あきスリーブに入っているモノもありますよね?コレってどうしてなんですか?」
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ん〜なかなか面白いです。オイラにとっては当たり前すぎて考えたコトもなかったけれど、言われてみれば確かに不思議。
初心者の方にとっては「なぜ?」となるのも当然です。そこで今回は、12インチシングルのジャケット事情について、オイラなりの考えと体験を交えながら掘り下げてみようと思います。



■レコードジャケットは音楽を拡張するもう一つの表現

まず基本から。レコードジャケットというのは「ただのパッケージ」じゃありません。
音楽の世界では、ジャケットは アーティストの作品世界を拡張するもうひとつの表現手段となっています。

たとえばThe Beatles / Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Bandのカラフルなコラージュ。あのジャケットはアルバムそのものの象徴であり、音楽の聴き方にまで影響を与えました。また、Pink Floyd / The Dark Side of the Moonのプリズムは、もはやバンドを超えて「ロック文化の象徴」となっています。
Beatles_lp

Pink Floyd_lp
これは音楽市場における商習慣とも関係していて、特に70〜80年代のレコード店では、棚に並んだときの「ジャケ買い」効果がとても大きかった…つまり、音楽を聴く前に視覚で購買意欲を喚起するツールでもあったワケです。

つまりレコードジャケットとは、単なる容器ではなく「音楽と聴き手をつなぐ入り口」であり、音楽の体験を視覚や触覚まで広げる装置だったというコト。だからアルバム(LP)にはほぼ必ずピクチャージャケットが用意されるんですね。



■LPと12インチシングルの役割の違い

ではナゼ、12インチシングルはLPのように一律でピクチャージャケットが付かないのか?
ここにはフォーマットの役割の違いが関わっています。

・アルバム(LP)
→ 作品として完成度を高める「本丸」。アーティストのキャリアを支える看板商品で、必ずある程度の売上が見込める。だからこそビジュアル面にも投資する。

・12インチシングル
→ 元々は DJ向けプロモーションツールとして誕生。音質重視で、クラブで大音量で鳴らしても最適なサウンドになるように設計された実用的フォーマット。どれだけ売れるかはリリースしてみないとわからない。ヒットするかハズれるかはレコード会社にとってもギャンブルのような部分もあり、余分なコストはできるだけ避けたい。

この構造の違いが、「LPは必ずピクチャージャケット」「12インチはケースバイケース」という結果を生んでいると思われます。



■ピクチャージャケットがある12インチの魅力

それでも12インチでピクチャージャケットが付いていると、やっぱり嬉しいものです。視覚的な満足度が高いし、棚に並んだときの存在感も抜群。特に80年代のメジャー作品では、12インチにピクチャージャケットをつけて「アルバムと並べても遜色ない商品」に仕立てるコトが多かったですね。

たとえばMadonnaやMichael Jacksonの12インチ。あの時代のジャケットは、アーティストのアイコン戦略そのもの。単に音源を届けるだけでなく、「スターのオーラ」をパッケージ化してファンに売る役割を果たしていました。
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また、アート性の高いジャケットはそれ自体がファンのコレクション欲を刺激する部分もありますよね。音とビジュアルを一体化させた作品として成立するから、ピクチャージャケット付きの12インチは今でも人気が高いワケです。



■無骨なジェネリックスリーブの魅力

一方で、無地のジェネリックスリーブに入った盤にはソレはソレで独特の渋さがあります。初心者からすると「味気ない」「手抜きか?」と思うかもしれませんが、実はこれこそが12インチシングル・カルチャーのリアルな側面だったりします。

・DJユースの利便性
→ 穴あきスリーブはレーベル面がすぐ見えて、曲名やバージョンを瞬時に確認できる。クラブの暗いブースで大きな武器になる。

・スピード重視の流通
→ プレスしたら即出荷。ジャケットデザインを待っている余裕なんてない。現場に早く届けるコトが最優先。

・レーベルのブランド戦略
→ Strictly Rhythmの赤茶のレンガレーベルやTommy Boyのロゴマークが印刷された統一デザインのように、無地スリーブ自体が「レーベルの顔」になった例もある。

この「業務用のリアル感」が逆に格好イイっていう部分も確実にあると思うんですよ。華やかさはないけど、「中身で勝負」「現場直結」という潔さがマニア心をメチャ刺激しているんでしょうね。



■ハイプステッカーがマニア心をくすぐる理由

さらに強烈なのが、ジェネリックスリーブに貼られたハイプステッカーの存在。これはもう、コレクターにはたまらない要素です。
AROUND-THE-WAY---


・情報が凝縮されている
どんなRemixが収録されているか、DJ向けのExtended Versionが入っているか…その情報がステッカーにしか書かれていないコトがある。

・限定感がある
ステッカー付き=初回プレスやプロモ盤の証だったりする。つまり「その瞬間だけ」市場に流れた証明書のような役割というのもイイっ!

・無骨さと機能美の融合
真っ白なスリーブにポツンと貼られたステッカー。そのバランスが、逆に音楽を際立たせる。これはアート的にも「ミニマリズムの美学」に近い感覚ですよね。

だから「ピクチャージャケットはアートとしての完成度」「ジェネリックスリーブ+ステッカーは現場感とリアルの証」。このふたつの魅力を両立して楽しめるのが12インチシングルの醍醐味だったりします。



■個人的に思うジャケットの面白さ

オイラ自身、最初は「やっぱりピクチャージャケットが付いている方がイイよなぁ〜」って思っていました。けれど、年月を経て無地スリーブの良さにも気付かされました。

例えば、N.Y.のHouseレーベルの白いスリーブジャケットのレコード盤。味気ないハズなのに、実際に針を落とすとクラブ直結の音が飛び出してくる。その瞬間「あぁ、コレは現場仕様なんだ…」と実感する。無骨さの裏にシーンの空気が詰まっている感覚がナントモ言えずイイんですよ。

だから今は「ジャケットがあるかどうか」というのは単なる違いではなく、その盤が生まれた背景や文化を物語る要素だと考えています。ジャケットひとつにも、音楽産業の戦略、DJの現場感覚、リスナーの所有欲、すべてが凝縮されているって思うんですよね。



■12インチのジャケットに映るカルチャーの豊かさ

「どうして12インチにはピクチャージャケットが付いていたり、ジェネリックスリーブだけだったりするのか?」
あくまでもオイラの推測ですがその答えは…

・レコード会社の投資判断
・LPとシングルの役割の違い
・DJユースとリスナー需要の差
・レーベルの戦略やシーンの文化性
といった複数の要因が重なった結果なんじゃないかなぁって思うのです。

でも大事なのは、「どちらが良い/悪い」ではなく、どちらもアナログ文化の豊かさを示す側面だというコトじゃないでしょうか。
ピクチャージャケットでアーティストの世界観を堪能し、ジェネリックスリーブで現場感を味わう。そのふたつを並べて楽しめるのが、12インチシングルの奥深さでもあります。

DIANA ROSS / LOVE HANGOVER (FRANKIE KNUCKLES REMIX)
DIANA ROSS / LOVE HANGOVER (FRANKIE KNUCKLES REMIX) の試聴
next recordsのサイトでDIANA ROSSのレコードを探してみる

派手なピクチャージャケットもあれば、無骨な無地のジェネリックスリーブ+ステッカー盤もある。どちらを手に取るかはお客さん次第。でも、選ぶ過程で「レコード文化の多面性」を体験できるのは間違いありません。

レコードを聴くという行為は、単なる再生以上の価値があると思うんですよね。手に取って、眺めて、並べて、時には飾って…音楽と視覚と触覚が融合する世界。これがデジタル配信にはないアナログならではの魅力なんでしょうね。

ぜひ、次にレコードを選ぶときには「ジャケットの有無」にも注目してみてください。その1枚が生まれた背景やシーンをカンジ取れば、音楽の聴こえ方もまた違ってくるハズっ!

📝この記事を書きながら改めて思ったのは、オイラ自身も当たり前だと思っていたことが、実はカルチャーの奥深さを象徴しているんだというコト。これをキッカケに、ぜひジャケットの有無をひとつの視点としてレコードを楽しんでみてください。

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