ふと気になった「レコードを買う人って、どれくらいいるんだろう?」
渋谷で12インチシングル専門の中古レコード店を始めて、今年で25年になります。
創業は2000年だから、もう四半世紀もこの仕事をしてるワケですね。
当時はまだ「レコード屋をやる」ナンて言うと、友人たちには「今からレコード屋なんてやって大丈夫なの?」って心配されたもんだけど、気がつけば今、街のアチコチでレコードが再び並び始めているのはなかなか考え深いモノがあります。
Tower Records、HMV、Disk Unionといった大手だけじゃなくってインテリアショップやアパレル、カフェなんかでもアナログレコードが置かれてたりするのを目にすると感慨深くなります。
ココ数年の「レコード人気再燃」は、メディアでもずいぶん話題になってるし、実際オイラの店にもビギナーのお客さんが確実に増えているのをカンジています。
だけどね──。
そんな“レコードの再ブーム”の話題を横目に、ふと考えたんですよ。
「日本でレコードを買ってる人って、いったい何人くらいいるんだろう?」
スタッフとのミーティングの時にそんな話題になったんですよね。
ん〜数字で見えるようで見えないこの問い…イヤ、絶対にわからないでしょ。
しかし、コレってその業界でビジネスをしているのなら結構、大切なコトなんじゃないかなぁ〜って思ったんですよね。
で、ナニか参考になりそうなモノがないかなって理科の実験みたいに推論を立ててみました。
データの限界──新譜は分かる。でも中古は誰も把握していない
日本レコード協会(RIAJ)の統計を見れば、毎年どれだけの新譜のレコードが生産・出荷されたかはキチンと数字が出ている。
オリコンや総務省のデータを見ても、CDやダウンロードの動向は把握できる。
でも──中古レコードは完全に「闇」なんですよ。
ドコにも1年で中古レコードがどれくらい販売されたのなんて統計は存在しないのです。
Disk Unionやレコファン、当店のような個人店、さらにはメルカリやヤフオク、Discogsの個人間取引まで含めたら、もはや誰にも全貌は掴めないんですよ。
長年中古レコード店を営んでいる立場から感覚的に言えば、中古レコードの流通量は新譜の何倍もある。
それはもう間違いないと思うんですよ。
実際、渋谷のレコード店を巡ってみれば一目瞭然です。
新品コーナーよりも中古棚の方がずっと広いし、動きも活発です。
でも「どれくらい?」と訊かれたら誰も答えられない。
そんな状況なのでオイラは思ったんですよね…せっかくだから「フェルミ推定」という考え方を使って、自分なりに推論してみようって。
フェルミ推定とは──わからないものを、論理的に“だいたい”出す方法
「フェルミ推定」っていうのは、
物理学者エンリコ・フェルミが得意とした「データがなくても、おおよその答えを論理的に導く方法」です。
たとえば有名な例がある。
「シカゴにピアノの調律師は何人いるか?」
そんなの誰も知らない。でもフェルミはこう考えた。
シカゴの人口、ピアノの普及率、調律の頻度、調律師1人あたりの仕事量──
それを積み上げて、最終的に「だいたい100人くらい」と推定した。
そして実際に調べてみるとフェルミが推定した数字とほとんどズレてなかったらしい。
つまりフェルミ推定ってのは、
「根拠を積み重ねて“現実的な仮説”を立てる思考ゲーム」みたいなカンジです。
フェルミ推定で「日本のレコード購入者数」を計算してみた
では本題。
オイラもこのフェルミ推定を使って、「日本でどれくらいの人がレコードを買ってるのか?」をザックリ出してみた。
仮定条件はこんなカンジです。
-
日本の人口=約1億2千万人
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日常的に音楽を楽しむ人=そのうち7割(約8,400万人)
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音楽を“フィジカルメディア(CDやレコード)で買う”人=そのうち5%(約420万人)
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フィジカル購入者のうち、CD:レコード=10:1
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その中で“日常的に(月1〜2回)レコードを買う人”=全体の2割
これを順番に掛け算していくと──
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8,400万人 × 0.05 = 420万人(フィジカル購入者)
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420万人 × 0.1 = 42万人(レコード購入者)
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42万人 × 0.2 = 約8万人(アクティブなレコード購入者)
ザックリした結果──日本のアクティブなレコード購入者は約8万人
つまり、日本で“月に1〜2回レコードを買う人”は約8万人前後。
これは日本の人口のわずか0.07%ほど。
「たったそれだけ?」と思う人もいるかもしれないケド、オイラの25年間の肌感覚では、「あ〜、確かにそんなもんかもな」と感じるんですよね。
実際に店頭で毎週顔を出すような「常連のアナログ好き」ってホント限られてるんですよ。
もちろん一見さんも来るけど、継続的に買う人となるとガクッと減るんですよね。
全国のレコードショップを足しても、この数字はかなりリアルに思えるんですケドね〜どうでしょう。
さらに現実チェック──販売枚数との整合性
ちなみに日本レコード協会の発表では、
アナログレコードの新譜出荷枚数は年間でだいたい200〜300万枚前後。
そこに中古市場の販売枚数(ざっくり1,000万枚程度)を足すと、国内流通総数は約1,200万枚。
これを先ほどの「レコード購入者 42万人」が買っているとすれば、1人あたり年間で約30枚──つまり月2〜3枚ペース。
ん〜これも現場感覚とホボ一致する…いや、むしろ多いくらいかもしれませんね。
LPと12インチ──同じ「レコード」でもまるで別世界
さて、ココからがオイラの専門分野。
アナログレコードと一口に言っても、LP(アルバム)と12インチシングルでは、お客さんの性質がまるで違うんですよね。
渋谷の店頭に立ってレコード店を営んでいるともうコレ、あからさまにアリアリと解るんですよね。
オイラの店は12インチシングル専門だけど、他の中古レコード店を回ると、その在庫比率はだいたいですがLP:12インチ=100:1くらい。
カンタンにいうとレコード店のエサ箱1枠に1枚くらい12インチシングルが混ざっているっていうカンジです。
つまり市場全体のメインは、圧倒的にLPなワケです。
LPを中心に買う人の中に、「たまに12インチも買う」という人は確かにいますよ。
でもそれは全体のごく一部だと思うんですよ。
お客さんの層は少し重なってるけど、12インチをメインで探す人は本当に少ないって思うんですよね。
12インチシングルの購入者をさらにフェルミ推定してみる
先ほどの「アクティブなレコード購入者=8万人」のうち、LPを中心に買う人がホトンドだとして、12インチも買う人の割合を在庫比率や購買傾向から考えると──
仮に販売人数比を「LP:12インチ=20:1」と緩めに仮定してみる。
すると:
8万人 ÷ 20 = 約4,000人
つまり、日本で定期的に12インチシングルを買う人は約4,000人前後。
人口比でいえば 0.003%。
ん〜少ないっ!コレ、まさに「選ばれし少数派」ってカンジですよね。
4,000人の世界──“小さくても、確実に存在する熱量”
12インチシングルをメインに日常的に購入する人の人数が4,000人…この数字を見て、驚く人もいるかもしれませんね。
でもオイラは、リアルな感覚として「タブン、そんなもんだろうなぁ」って思っていたりします。
DJ、コレクター、リスナー ──
12インチシングルを買う理由は人ソレゾレだけど、共通してるのは“音にコダワリがある”コトだと思うんですよね。
レコード盤に針を落とした瞬間にカンジる、太くて、立体的で、温かい音。
それを実感として体感しているから、彼らは今でも12インチを探し続けてるんじゃないかなぁ〜って。
数字で見ればわずか4,000人。
でもその4,000人が、日本のクラブカルチャーやアンダーグラウンドなアナログレコード文化をずっと支えてきたと思うと、ちょっと感慨深いモノがあったりします。
じゃあ、12インチシングルだけで商売できるのか?
正直に言うと──かなり厳しいんじゃないかなって思うんですよね。
12インチシングルだけを扱うレコード店は、全国でも本当に少ないんですよね。
その理由は単純で、市場が小さすぎるからだと思うんですよね。
大手のレコード店にとってはビジネスとしての旨味がホトンドないんじゃないでしょうか。
だけどオイラは、25年間このジャンル一本でレコード店を続けてこられた。
それは、他のレコード店がやらないからこそ12インチシングル専門店のNext Recordsの存在感が際立ってるというのもあるのかもしれません。
ちょっとカッコいい例えをすると、まるで砂漠にポツンと立つオアシスみたいなカンジ。
ん〜でもホント、12インチシングルをメインで買いたいって思っている人からするとホント、12インチシングルって見つけづらいし、なかなか売ってないんですよね〜。
そういった個人的な体験から12インチシングル専門っていうのを選択したワケです。
まぁ〜お店をはじめた2000年当時は、DJ人気の最中で12インチシングルはメインストリームだったのですが…。
やっぱりレコード店を営んでいるのでそりゃあ「もっと売りたい」「お客さんを増やしたい」という気持ちは常にありますよ。
でも「売れるレコードなら何でも扱う」っていう発想にはやっぱりなれないんですよね。
個人的にも本当に好きで、惚れ込んでいる12インチシングルを、丁寧に、心を込めて販売していきたいって思っているんですよね。
オイラの結論──数字で見ても、やっぱりアナログは“人の熱”で動いている
フェルミ推定の結果をまとめるとこうこんなカンジ👇
| 区分 | 推定人数 | 割合 |
|---|---|---|
| 年に1枚でもレコードを買う人 | 約42万人 | 約0.35% |
| 月1〜2回レコードを買うアクティブ層 | 約8万人 | 約0.07% |
| 定期的に12インチシングルを買う人 | 約4,000人 | 約0.003% |
数字だけ見れば、レコードを買う人は本当に少数派ですね。
実際、お店に訪れていただいたお客さんに「まわりの友達でレコードを聴いてる人います?」って訊くと「ダレもいません…」っていう返事がホトンドですからね。
だけど、だからこそ面白いんじゃないかなって思います。
これだけデジタルが主流になった時代でも
「わざわざレコードを買う」という行為に意味を感じてる人が、確かに存在するワケです。
そのひとりひとりの「熱量」が、アナログ文化をココまで生き残らせてるんじゃないかなって。
そしてオイラも、その文化のド真ん中に、これからも居続けたいって思うんですよね。
LITTLE LOUIE VEGA feat. BLAZE / BRAND NEW DAY
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0.003%の世界で、12インチシングルを聴き続ける
日本中でたった数千人しかいない12インチシングルの愛好家たち。
でも、数字の小ささよりも、その中にある「熱意」の大きさをレコード店主としては信じているんですよね。
だから、これからも渋谷のシスコ坂の途中で、ひとりでも多くの人に「やっぱり12インチシングルってサイコーですよね〜っ!」って思ってもらえるように、丁寧に、1枚ずつ、針を落とす瞬間のワクワクを届けていきたいな〜って思う次第であります。
まぁ〜あるイミ、ソレがNext Recordsの使命なんだと思うんですよね。
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