12インチシングルから読み解く制作環境
渋谷で12インチシングル専門の中古レコード店を営んでいて、日々レコードを触り、磨き、棚に並べていると、ある種の「偏り」にどうしても気づいてしまうんですよね。
12インチシングルってUS盤やUK盤が多いのは、正直なトコロ想定内なんですよ…ダンスミュージックの最大の消費地はUSで、12インチシングルというフォーマットを文化として成熟させたのはUSやUKのクラブ・シーンですからね。
これは歴史的にも感覚的にも納得がいくと思います。
でも、その次に棚を占領している国を見ると、その国の規模の割に多いのがイタリア盤なんですよね。
しかも、ただ多いだけじゃなくって80年代を中心に、似た質感、似たテンポ、似た構造の楽曲が、信じられないくらいの量で存在しています。
最初は「たまたまかな」と思っていたんだけど何百枚、何千枚と12インチを扱っていると、それはもう偶然では説明できなくなってくるくらい多いんですよ。
「なんでイタリアだけ、こんなに量産されてるんだ?」
この違和感が、結構長い間オイラの中でずっと引っかかっていたんですよね。
12インチシングルという「前提条件」
そもそも12インチシングルは、鑑賞用のフォーマットというよりもDJがフロアで使うために生まれたメディアという意味合いが大きいと思います。
音圧を稼げる溝の幅、長めのイントロとアウトロ、ミックスしやすい構成…すべてが「現場で鳴らされる」コトを前提に設計されています。
だから、12インチが大量に作られている国というのは、ダンスミュージックを「聴く音楽」ではなく「使う音楽」として捉えていた国だと言ってイイと思います。
USやUKもモチロンそうですが、イタリアの場合は、その割り切り方が一段深かったんじゃないかなってカンジるワケです。
ダンスミュージックを消費財として見ていたイタリア
イタリアの制作者たちは、ダンスミュージックの本質をとても冷静に見ていたんじゃなかなぁ。
ダンスミュージックは流行の最前線にあり、移り変わりが激しく、消費される速度がとにかくメチャ早い。
フロアの空気は数ヶ月で変わり、去年のヒットはもう確実に古くなってしまいます。
なので1曲を何年もかけてヒットするまで育てる必要はないワケです。
むしろ必要なのは、
・短期間で作れるコト
・一定以上のクオリティを保てるコト
・世界中に一気に流せるコト
この考え方が、結果的に「量産」というカタチになったんじゃないでしょうかね。
ココが大事なポイントなんだけど、イタリアは決して「音楽を軽く扱った」ワケじゃなくって、むしろ逆で、ダンスミュージックというジャンルを極めて正確に理解していたからこそ、こうした発想に至ったんだと思うんですよ。
US/UKとの決定的な分岐点
USやUKのダンスミュージックは、人やコミュニティと強く結びついていたと思います。
・誰が作ったのか。
・どのクラブで生まれたのか。
・どのDJがプレイしたのか。
音楽そのものに、必ず「物語」が付随しているコトが多いですよね。
一方、イタリアは違っていて国内市場が小さいので、最初から国外、つまり世界市場を見据えざるを得なかった。
だから、文化的背景や文脈は極力削ぎ落とされるようになったと思います。
誰の国でも、どのフロアでも、今夜スグに使える音楽が求められたみたいなカンジですね。
その結果、「人」よりも「曲」が前に出る…「表現」よりも「構造」が重視される。
この価値観の違いが、イタリアのダンスミュージックを決定的に特徴づけるコトに繋がったんじゃないでしょうか。
分業という名の合理性
80年代初頭のイタリアでは、ダンスミュージック制作が明確に分業化されてゆきました。
メロディを作る人、構成を考える人、シンセの音色を作る人、リズムを組む人、ヴォーカルを乗せる人…それぞれが役割を担い、効率よく作業を進める。
こういうのを聞くと「流れ作業」「手抜き」と感じる人もいるかもしれないけど、実際に曲を聴くと解るとおもいますが音はちゃんと強いし、フロアでもしっかり機能するワケです。
これは手抜きじゃなくって安定供給のための設計された音楽であるコトが解ります。
毎回天才のひらめきに頼らず、一定以上のクオリティを再現できる仕組み…それがイタリア式のダンスミュージックを送り出すシステムだったんじゃないかなぁって思うんですよね。
ヴォーカルというパーツ
イタリア産ダンスミュージックを語る上で避けて通れないのが、ヴォーカルの扱いでしょうね。
同じトラックに別の歌い手、名義を変えてのリリース、国ごとに差し替えられる歌。
USやUKの感覚だと、これはかなり異質に映りますよね〜でもイタリアでは、極めて合理的だったようです。
ヴォーカルは人格ではなく、楽曲を市場に適応させるためのパーツ…だから交換可能だったみたいなカンジでしょう。
この割り切りがあったからこそ、短期間に大量の楽曲を世界中へ送り出すことができたようです。
工業製品化が進んだ時代背景
この流れがハッキリとしたカタチになったのは、70年代後半から80年代前半です。
シンセサイザーやドラムマシンの普及により、少人数・短時間で楽曲を完成させられる環境が整ったことが大きいと思います。
そしてItalo Discoと呼ばれるスタイルが広まり、制作は完全にシステム化されていくワケです。
ここでイタリアは、「天才に頼らないダンスミュージック」という道を選んだという経緯になったと思います。
なぜUSは同じ道を選ばなかったのか
USがこのモデルを全面的に採用しなかった理由は、技術ではなく文化だったからでしょうね。
USのダンスミュージックは、コミュニティやアイデンティティと深く結びついていて効率化しすぎると、その文脈が失われてしまうと自然と思われていたんじゃないかな。
そういったトコロをイタリアは完全に割り切った。
USはシッカリと守った。
どちらが正しいかじゃななくって立っていた場所が違っただけだと思います。
12インチシングルに刻まれた思想
12インチシングルを掘る面白さは、こうした制作思想が溝に刻まれているトコロにあるでしょう…音圧、構成、展開とそのすべてが「フロアで鳴らす」ための合理性に基づいている。
イタリア盤を手に取るたびに「これは感情論じゃなく、設計の音楽なんだろうな」ってオイラは思うんですよ。
工業化の起点はイタリア人だった
イタリアのダンスミュージックがいきなり量産体制に入ったわけじゃなくって調べてみたトコロそこには、ハッキリとした起点があるようです。
すべての始まりGiorgio Moroderからだった
Giorgio Moroderは、イタリア人でありながら拠点はドイツ・ミュンヘンです。
ココが重要でUSやUKのブラック・ミュージック文脈から少し距離を置いた場所で、彼はダンスミュージックを「構造」として捉え直したと言えます。
象徴的なのが、1977年にリリースされた
Donna Summer / I Feel Love と言われています。
ほぼ全編がシンセサイザーで構築され、反復するベースラインとミニマルな展開…グルーヴは人間の演奏ではなく、機械が担っています。
この曲が示したのは、
ダンスミュージックは「演奏」ではなく「設計」で成立する
という考え方だったと思います。
Giorgio Moroderは間違いなく天才です、でも重要なのは、彼の方法論が「再現可能」に見えたコトでしょうね。
ここで初めて、「天才のひらめき」を「仕組み」に落とし込める可能性が見えてきたのかもしれません。
80年代初頭、思想が現場に降りてくる
70年代後半から80年代にかけて、シンセサイザーやドラムマシンがイッキに普及してゆきます。
Linn Drum、Roland TR/TBシリーズ、Yamaha DXシリーズとか有名ですね。
こういった機材によって少人数 & 短時間で、ある程度の完成度の楽曲を作れる環境が整ったワケです。
ここでイタリアのダンスミュージックの制作環境は大きく動きました。
Giorgio Moroderが示した設計思想を、現実の制作現場に落とし込み始めたワケです。
Italo Discoが量産モデルを完成させた
80年代前半、Italo Discoという呼び名で括られる楽曲群が次々と生まれてゆきます。
ココで重要なのは、ヒット曲そのものより制作の仕方です。
中心にいたのが、Pierluigi Giombiniと言われています。
Pierluigi Giombiniは、いわゆる「アーティスト型プロデューサー」ではないでしょう、どちらかと言えば、プロジェクトマネージャーに近い存在だったんじゃないかな。
彼の関わったプロジェクト――
Gazebo / I Like Chopin や Ryan Paris / Dolce Vita は特に有名で世界的なヒットを記録しました。
これらは、強烈なメロディとシンプルな構造を持ち、文化的背景を極力排した世界仕様の楽曲です。
重要なのは、「誰が歌っているか」より「このメロディが刺さるか」が優先されている点ですね。
KANO / I'M READY
KANO / I'M READY の試聴
next recordsのサイトでKANOのレコードを探してみる
渋谷の小さな店で、今思うこと
世界中で作られ、世界中で消費されたダンスミュージックの12インチシングルが、オイラの営んでいるNext Recordsに集まっている。
US盤もUK盤も、そしてイタリア盤も…それぞれ違う思想で作られ、同じようにフロアを熱くしてきた楽曲たちです。
12インチシングルは、ただのレコードじゃないっ!
その時代の制作環境と価値観が、そのまま刻まれたメディアだと思います。
もしこの記事を読んで、イタリア盤の12インチシングルを少し違う目で見てもらえたなら、ちょっとウレシイなぁ〜。
12インチシングルに針を落とせば、そこにはちゃんと「理由のある音」が鳴っていると思いますよっ!
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